翻刻
處あ連ば。古々尓はもらしぬ。さて右三法とも。かゝる凶年いひ出し
ても。/俄(尓はか)尓間尓合ふ事ならざれば。/聞(きく)人/江河(かうが)の道を引て。/急火(きうくわ)を
救ふ様尓いひなし。/迁遠(うゑん)也と思ふも。あるべけれど。左尓あらず。
かゝる手柄のせ川盤。人々平生のたくわへ。なかりしを/悔(くや)み。是後
はと思ふ者もあれば。/却(かへつ)て/行(おこなは)るべき也。既尓文化文政の頃。米至て
賤しき時。此/策(さく)を行ふはづな連ど。その時盤い川も。かゝるもの登
心得。こま〳〵いひ出るものありとも。とりあふ人なくてつ以尓その
/機會(きくわい)を失へり。今尓もせよ米價常尓もと連ば。此頃の事は忘連
はて。是等の事は。/急務(きうむ)尓あらずとおもふべし。さりながら。三四十年
のうち尓は。い川も定まりて。ひとたび来る飢饉なれば。今よりその
心置きなくば。いはゆる遠き/慮(おもんばかり)なくて。近き/憂(うれひ)尓あふ事あるべし。
町人百姓は。古今を志らずともよかるべ希連ど。士たるもの古今の
/治乱興廃(ちらんかうはい)尓/暗(くら)くては。士と春る尓たらず。わづか尓三四十年尓来る。
飢饉の事さへわきまへず其手当を/忽(おろそか)尓する位尓ては。百年も
二百年も。遠ざか連る。/兵革(へいかく)尓出合なば。如何/處置(しよち)するやらん/覚束(おぼつか)
なし。さて此積米は。数万人/性命(せいめい)の。かゝると古ろなれば。たとひ/勝手(かつて)
ふ如意の諸侯尓ても。思ひ立せられざれば。人の君といひ。民の父母
と。いふべから須。いかほど不如意といへど。大凶年尓逢ひ。其領下の
もの。餓死するを見ては。春て置君なく。その時は重代の/宝器(ほうき)を。
賣拂ひてなりとも。救ふ氣尓なりゐふ事尓て。近頃もそのためし