翻刻
なり。芋葉大根葉などは。実尓春たりついゆるな連ば。別して/惜(おし)むべし。
余此十年以前《割書:文政の末|のあと也》飢饉のめぐり来ん古とを思ひ。芋葉は救荒の。
助となるゆゑ。春てましきよしを。知連る百姓尓いへど。あへて用ひざる
ゆゑ。誠尓/後園(かうえん)一二畝の間尓作る。芋葉をとらせ。きざみて。/蔭干(かげぼ)し尓
致春様尓命春れど。/婢僕(ひぼく)など。面倒がるゆゑ。年々尓其内三分一種
づゝ。自らきざみ貯へ見し尓。去る巳年尓いたつて。米價頗る貴とく。
小民やゝ難渋尓及びしかば。出入の難渋ものへ。米数升つゝ尓。右の葉を
古と〴〵〳〵付てやりしかば。/糅(まじ)へ食ひて数日の食とせり。かく食の助と
なり。多分出来るものな連ば。在々の心ある/有徳(うとく)のものは。右尓いふごとく。
春たる時尓。少しづゝ。銭をいだしてかい入れば。百姓共も銭尓さへなれば。めん
どうなりとも取収めて春つまじ。但大根葉は干葉尓しても三四年
たてば。朽ちるといへば。三年目尓は困窮者へ与へて入替ふべし《割書:大根葉は作物の|肥尓なるべし》
《割書:蓮根尓盤|尤よろし》芋葉は数十年たちても。少しもかわらぬものなれば。大凶年の
備とな春べし。但いそかしくて。/細(古まか)尓切る古とあたわずば。其/侭縄(まゝなわ)尓/貫(つらぬ)
きて。乾し置/揉(も)んで粉尓し。貯へばよし。是は/民間(みんかん)尓て能知る古登
な連ば。委しくはいふ尓及ばず。志かし。此凶年の当座尓は皆々用心し。
此等の干葉尓て。一旦命をつぎしものもあ連ば。たや春くすてまじ。
是も十年前後/豊熟(不うじゆく)の節尓至り。米両尓一石以上尓もならば。春つる
様尓なるべけ連ば前方より其心組して。時尓当りて。はづさぬ様尓/處(志よ)
/置(ち)あるべき古と尓こそ〇全国は貴しといへども。荒年の備と春べ