産業史料を翻刻!

コレクション: 養蚕の書

蚕養御由来記 - 翻刻

蚕養御由来記 - ページ 7

ページ: 7

翻刻

あからさま也姫君も継母(けいぼ)の事なれば尤歎きぞ増りけり かゝる處に彼妃よの人に変(かは)りて邪見放逸(じやけんほういつ)の人也とりわけ 姫宮を憎(にく)み給ふていろ〳〵讒言(ざんけん)し悪逆(あくぎやく)日々に増長して 或時妃の巧みにて獅子吼(しゝく)山と云山あり彼山 深(しん)山にして そこばくの年月を経るといへ共人の通(かよ)ふべき事なし 栖(すむ)獣(けもの)には獅子王と云けだもの計(ばか)り多かりき一切の畜類(ちくるい)を 取喰ふ故(ゆへ)に鳥獣虫の類一ッもなし人倫の影(かげ)をさすと いふ事なくかゝる恐しき山え姫宮を流し失ふべしと仰られ 彼官人共主命是非もなしとは云ながら捨られける 継母の中の情なき事やあらんと諸人申 敢(あへ)けり 去(され)ば姫宮は彼山に一人おはして涙とともに月日を送り給ふ其山に 獅子多くすむといへ共姫宮をあやまり申事もなく却て 礼拝し奉る衣食物を求めて参らせけるかゝる程に星霜(せいそう)を 送らせ給ふ或時彼山の獅子姫宮の前に来てひざまづき 頭をうなたれて礼し其後己れがせ脊を向けてうづくまる 姫宮はいづくへ行はとておしからぬ命にもあればこそと 思ひ給ふて獅子に打乗り玉へば余所(よそ)へは行すして天子渡らせ 玉ふ紫宸殿(ししんでん)の床(ゆか)に下し奉りて獅子は其 侭(まゝ)帰りぬ然る 處に公卿大臣姫宮を見奉り御歎きは限(かぎ)りなし斯(かく)の如く かしつき奉れは又或時彼妃の所行(しはざ)にて姫宮を弥にくみ