翻刻
々 夫婦(ふうふ)は酒を好みたうべぬれど。此者は幼(いとけ)なくて杯(さかつき)をさへ
手にだにもふれずとかたるを。筍斎打 笑(わらひ)。扨 愚(おろか)なる人々かな酒
のみの腹(はら)にやどり上戸のたねをおろしたればそ此 病(や)はありける
虚(きよ)なる父母の体(てい)をうけて。生(うま)れながら虚なるがことしされ
ば此病 薬(くすり)にて験(しるし)あるべからず。爰に我に伝(つたふ)ふる祓(はらへ)の秘事有
是をは君につたへ申さむ。抑(そも〳〵)此はらへは大 中臣(なかとみ)の家につたへて
月ごと此御わざし給ふこと禁裏(きんり)におゐて絶す。いつの頃よりか
みなづきとせちふんの夜此 祓(はらへ)をなすになれり皆としの内
の災(わざはひ)をはらふの呪【左ルビ「ましなひ)」】なりけり此故に
みな月のなごしのはらへする人はちとせのいのちのふと社聞
なととも読(よめ)り。いでさらは祓申さん此子が名はととふ鶴松と申
といへば。印こと〳〵しく結(むすん)で。やあらめでたや。やあらたのしや此
子が寿命を申さば。鶴松(つるまつ)千年(せんねん)亀(かめ)山の万年 悪病(あくびやう)外邪打
払(はらふ)て西の京へさらばといひて帰(かへり)にけり。亭主(ていしゆ)興(けう)ざめながら子を
思ふ親(おや)の心。いづくもおなし事ぞかし。筍斎が千世万代(ちよよろつよ)とこと
ぶきしを慶(よろこひ)。是より心ちもよくなりければ。黄金(わうこん)に名酒(めいしゆ)など
添(そへ)て礼につかはす。筍斎 使(つかひ)にあひて。是はおびたゝしひ御礼
物。迷惑(めいわく)ながら。はる〳〵の所御 志(こゝろざし)過(くわ)分なれば。酒は申うけう
ず。金子(きんす)は納置ませうとて持(もち)て入ぬ
四 妙薬(めうやく)は磁石(じしやく)の推量(をしすい)
一とせ八月 暴風(のわき)凄まじく家をたふし。こけらうをまくりし日
あるものゝ子十五六なるがやねのまくるゝを。ふせかんど屋の上に
【参照資料:国会図書館デジタルコレクション>浮世草紙刊行会叢書>第1巻>新竹斎>巻之一-四 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/953502/159】