翻刻!江戸の医療と養生

コレクション: 模範解答付きコレクション1

新竹斎 5巻 - 翻刻

新竹斎 5巻 - ページ 19

ページ: 19

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のぼる此者 持病(ぢひやう)に癲(てん)狂あり。やねにて件(くたん)の病おこり。うん といふ声に。おや驚人あはてゝ。水のきつけのとさはぐ。やう〳〵 正気(しやうき)はつきながら。おそれてのぼりはしを得ほりずこは。いかゞ すべきと医師(いし)を頼(たの)めども大風に世上 騒動(さうどう)の最中(もなか)なれば 見まふくすしなし。此上は筍斎なりともと人をはしらす。 筍斎は今 内証(ないしやう)にひんのやまひ者。はやりいしや。りやう ぢは。たんば已来(いらい)珍(めづら)しうはあり大風が家をまくるともおれが。や ねではなしと。とつかはと見まふ。病人(ひやうにん)はやねにおります。是 は妙(めう)な所にゐる。おろしやれといへば。さればそのおるゝ事のなら ぬをおろして下されよと次第(しだい)をかたる。筍斎はうづえに小首(こくび) ひねりて。是によい薬があれど持あはせぬ残多しといへば。 亭主(ていしゆ)いづかたにある物でござるととへばみちのくにあるいなぶねと いふ物じや。のぼつてからくだらぬといふ事がない。されば歌に   最(も)上川のぼればくだるいな船のいなにはあらて此月斗 などゝも読(よめ)りといへど。是は時の手にもあはずなどいひあへれば 筍斎 懐(ふところ)より万年ごよみ取出し。此子がとしはいくつぞととふ。 十六といへば打 頷(うなづき)。爰に寄(き)妙の薬(くすり)こそあれ。是々とて薬 箱より。古(ふる)き磁石(じしやく)をとり出し。はしごのもとにさし置て 子細(しさい)らし〱ひぢをはり。今の間(ま)に此薬。上なる子を。すいおろす 功(こう)ありといひのゝしるを。傍なる人いかなる薬にて候ぞととへば されは此子十六金 性(しやう)也。琥珀(こはく)のちりをすい。磁石のかねをすふ 事是天 然(ねん)の妙(めう)なりき待給へと。時うつれどおるゝけしき