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取出。寒天(さむそら)に御 太義(たいぎ)ひとつ参れ。是は忝(かたしけな)し。あなたへ御出な
されなば。院主(ゐんじゆ)へ申御ちさう仕らふなどあいさつに時うつり。夜半(やはん)
に京を出立(いてたつ)。筍斎。ねめ介にさゝやき。毎(いつも)ながら主従(しゆじう)ふたり出
て行ば。留守(るす)の用心(やうじん)おぼつかなし。此ほどの黄金(わうごん)も薬筥(くすりばこ)に
入よ。小遣銭(こづかひせん)も内に置(おく)なと。可然(しかるへき)物は不残(のこらず)とりこみ。拝領(はいりやう)の小
袖取かさね。火用心きづかひなくいざ参らふとかこにのる。しすま
したりと飛(とん)でゆく。雲(くも)のあかたつ山にかゝれば。けあげの水の底(そこ)
凄(すさま)じきおきつ白 波(なみ)どつといふて。ぬす人の同類(どうるい)数(す)十人うばか
懐(ふところ)をおどり出。主従(しゆじう)ながら丸(まる)はだかに薬箱(くすりばこ)とて残(のこ)さねは。筍斎手
を合て。去(さり)とては着物(きもの)はとらせ給ふとも。薬箱(くすりばこ)は家業(なりわい)ぞゆるし
給へといへど。己(おのれ)らそこを働(はたらく)か一 言(ごん)も口をあかば。首(くび)と胴(どう)との
さいめを見せんと氷(こほり)の様なる刀(かたな)を抜(ぬけ)はいとゞ。気(き)もきえわなゝ
ひて物をだにいひえず。其ほどに夜盗(よとう)どもはいづち行けん不(しら)
_レ知(ず)されとも。うこかば。又いかなるうきめやみんと。働物(はたらく)は目。斗に。耳(みゝ)に
嵐(あらし)の松(まつ)の声(こゑ)一 身(しん)にひえわたりぬ。此 悲(かな)しさの中にも
ひの岡(をか)は名のみ成ける寒(さむ)さか哉だいてもゆぶれうばがふところ
漸(やう〳〵)東雲(しのゝめ)になれば。米車(こめぐるま)魚荷(うおに)の京に出るなんど物 音(をと)す。今はく
るしかるまじ。京にいなんといふ。ねめ介が云。只今(たゞいま)爰(こゝ)を出て何と
はしるとも京迄ゆかば白昼(はくちう)になるべし。某(それがし)の存の者(もの)安祥寺(あんじやうじ)
といふ山さとに侍り。爰(こゝ)に行て一重(ひとえ)づゝもかりて参らん。かうお
はせよと猶(なを)大 津(つ)道を東に行。道(みち)々人みとがめて。是はきやう
がる寒天(さむそら)に裸(はだか)にて走(はし)るは。京へ夜盗(よとう)に入てかくはがれたる者(もの)