翻刻
此後大 相撲(ずまふ)になりて終日(ひねもす)ねぢ合とり合けるがとかくして
入日。桂(かつら)の瀬にあらへば御 退参(たいさん)の声(こゑ)かしかましく其日のす
まふははてゝ思ひ〳〵に行わかるゝ。道々 筍斎(しゆんさい)(とも)友どちに
さきになのりの所にて口々に申されし名乗(なのり)は何々ぞ。
是々といふ。先そのほうの頭巻(かしらまき)との給しは。我があたま
に鉢(はち)まきしたるといふ心か。いかにもおもては左(さ)のとをり。うら
をかへしてきく時は。かな釘(くぎ)のゐめうにて。出てはかならず
打つけらるゝ心よとどつとわらふ。次(つき)にしまがにといはれし
は。はさんでいたむる心かととふ。存(そんじ)もよらず。横(よこ)ばいに這(はい)さる
る心。目が上になるといふ事と又わらふ。三 番(ばん)にやみの夜
となのられたは。推量(をしはかる)に。むかしあまてる神のいはとに入せ
給ふて。とこ闇(やみ)の夜と成し心にて某(それがし)にかみがないといふ
事なるへし。いかな〳〵其様奥ふかさ心なし。ちかき比の
ことぐさにねつけひやうたんのふたつのふくらおなしきをあと
さきがしれぬとて。やみの夜(よ)といひ侍り。お身がつふりと胴の
大さ此物にひとしき故。かくは申つ其上すまふに出るより
こしにつけらるゝといふ事と又わらひぬ。さて又自身の吉
野漆はいかに。さればよしのは花も実(み)もある心漆といふは。さ
はるほどのものが皆まけるといふ事と。まだ利口をはいひける
に扨も付(つ)いたり漆坊(うるしぼん)と腹(はら)をかゝへ背(せな)をより。各(おの〳〵)ゑつほに
入あひの。かねなる比に別れておのがさま〳〵に帰りにけり
四 色狂(いろくる)ひ綻(ほだし)にかゝる玉蔓(たまかづら
【参照資料:国会図書館デジタルコレクション>浮世草紙刊行会叢書>第1巻>新竹斎>巻之二-四 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/953502/167】