翻刻
人 待貌(まちがほ)のつれ引にくゆるおもひのたはこかな。男ひとりを
見かけては。うき木にあへる一 眼(がん)の亀といへるやりてが出て
むりに局(つほね)に抱(だき)こむあり。おかしくもながめ捨。あけやがもと
にうち入ば。亭主(ていしゅ)を始(はしめ)下々迄 同音(どうをん)のついしやう声耳をお
どろかす計也、箱(はこ)はしごさゝれてのぼるあま小船(おふね)とつらねし
恋のふちせ。ぬれの水上(みなかみ)。爰ぞさながら水亀(すぼん)のすみか。吸取(すいとり)
るゝとしりながら。此心のうきさとにもいはれずかゝ此ほどは御
久しうごさります大臣されば此間はしゆびがなふて此さとの
事計思ひくらしたればやせるわいのかゝ夫(それ)はおなし御事太夫
さまも御事の御うわさにうか〳〵成ます大臣さふしたふかひ
あいさつ太夫のいはるゝさへきのどくなにかゝちと御酒あかりませ
などいへば。太夫様の御出といふとひとし〱足音しどけなく。
けふは何とおぼしてこざんしたなど口説(くぜ)らしきこと葉(は)のいろ。
あさからぬ中とぞ見えし。大臣かいとつて先ちかつきにし
ませうあの法師(ほうし)は何がしと申す。これは御 坊(ぼう)に語(かた)りし太夫 我(われ)
等が敵衆此 已後(いこ)はなど挨拶(あいさつ)し玉蔓と云引女郎合する杯(さかづき)
あなたにかよひこなたに。此さとのなけふしはいふもさらなり
かぶろの八 弥(や)道行まふもかはゆし。かくありしほどにした
男が夜物(やぶつ)あぐる音(をと)するに。げにあけなんあすのには鳥
をおもへば。枕とるほどは夢の間なりや。夜は何時そ亥の刻
過て寝時分と。ちよつとかる口。した男には見あげたり
かくおそろしき髭(ひげ)つらもふすゐの床(とこ)とるはやさしと