翻刻
てふ笠(かさ)の梅の木の定斎(ぢやうさい)にほふ東風(こち)吹てあら砥(と)そばだつ石部(いしべ)山
ふもとにそひ〳〵みくも村 横田(よこた)川に望(のぞみ)て筍斎(じゆんさい)
みだれ碁(ご)の石部につゝく渡(わた)り手の浪(なみ)打かへるよこた川哉
まけぬ勝負(しやうぶ)のかち渡り。足(あし)もまだひぬいづみ村。猶(なを)ぬれ〳〵て水口(みなくち)に
我やみゆらん蝌(かへるこ)の浪に陰(かげ)ある柳(やなぎ)こり風(かぜ)新柳(しんりう)の髪(かみ)をけづれば鰌(とぢやう)の髭(ひげ)や作(つくり)
坂下らせ給ひける程(ほど)に舞(まひ)の村行 扇(あふき)の手。お茶やの千世(ちよ)をよばふ
なる松の尾(を)村のはを磨(とい)で鑿(のみ)でおこすや。土(つち)山の生(いく)のゝあめや
ぢわうせん。ねふりもて行ほうべらによこ筋違(すぢかい)。の田村川 水上(みなかみ)
久(ひさ)に劫(こう)をへていく世かすめる蟹(かに)が坂。ゐのはなたるゝ藤巴(ふぢともへ)沢江(さわゑ)
の水の木(こ)の下や峠(たうげ)に高きかご賃(ちん)をはらはぬ袖のしよぼ〳〵と露
となみだのおり坂(さか)を西行法師(さいぎやうほうし)の詠しけん
すゞか山 浮世(うきよ)をよそにふり捨(すて)ていかになり行我が身なるらん
此ことの葉(は)も身の上に我がなり行すゞか川 八十(やそ)せの数(かず)に老(をい)くれて
しはやよるらんひげ野老(どころ)にが竹けづる色 火縄(ひなは)関(せき)とは宿(しゆく)の名のみに
て。とまらぬ旅(たび)ぢ迷(まよ)ひ行。衢(ちまた)や六に別るらん。ちざうほさちに道
とへば。南はいせぢ東(ひがし)にゆけ忝(かたしけなし)と諾(うなづけ)はこや張貫(はりぬき)の亀(かめ)山を中(ちう)に操(あやつる)
緒(を)の町の賎(しづ)がをだ巻(まき)引はへて野尻(のじり)につゞくさゝがにのくもゐに
ひゞく音楽(おんがく)の庄野 俵(たはら)を鼓(つゞみ)かと打よりてみるかはゐ村。わきて
流(なが)るゝいづみ村。いつみた事もなひ人のおじやれ〳〵に気(き)がうひてぬめ
りすがたのうなぎ町。されは恋(こひ)には虎(とら)とみて思ひをとほす石(いし)やく
し忍(しのぶ)細(ほそ)道 杖(つえ)つき坂(ざか)。竹の一よやふた夜三夜 四日市(よつかいち)たつ。商(あき)ひ
とや。田夫(でんぶ)交(まじり)の鄙(ひな)の村かへす畑(はたけ)のうねめ町 鋤(すき)と桑名(くわな)の町