翻刻
けり行 暮(くれ)て木(こ)の下 陰(かげ)の沓(くつ)の音(をと)はづむまりこの盛(さかり)には忠(ちう)が
ふちうの花の雨(あめ)疎(をろか)になせそみかきもりゑじりにもゆる漁火(いさりひ)の
うつりも青(あを)し狐坂(きつねさか)ほむらや残す姥(うば)が池月 清(きよ)みがた三保(ほ)の
松 天(あま)の羽衣(はごろも)ひろひても五たびかへすおきつ波(なみ)塩(しほ)やに荷(に)なふ田子
の浦一 石(こく)二石つもりては三 国(ごく)一のふじの山 雲(くも)より上は白雪の見
ゆる計もいや高(たか)〱旅路のうさも一 時(とき)にはるゝ蒼天(さうてん)又 類(たくひ)なし
白 妙(たへ)の昔(むかし)のまゝに年ふりてふらうふしなる山の雪哉 筍斎
ひえの山をはたち計のふしの山つふりをみれは若しらか哉 ねめ介
ふじの山せこそはたちに高(たか)からめいくもかのこの雪のふり袖 玉かつら
此ふり袖を誰(た)が子ぞと問(とい)もて行(ゆけ)ど親(をや)しらず昔(むかし)通(とを)りし古(ふる)道
の種々(しゆ〴〵)に替(かは)れるさつた山 笹(さゝ)に露ちる白ゆふやゆゐを参らす
神原(かんはら)のみこか口とく古はやによし原雀 囀(さへつり)て。雲に飛行の
天(あま)のはし。足高(あしたか)山を引まはす屏風所のぬまづの宿。三 島(みしま)暦(こよみ)の
はつ春(はる)を。口あけてみる箱根山 宝(たから)の玉の水取て畔(くろ)にしかくる
小田原(おたはら)の野夫(やふ)が作(つく)りの俵(たはら)物つんて悦(よろこぶ)。透頂香(ずいてうかう)味(あちはひ)わきてい
し地蔵(ぢざう)化(はけ)て火 灯(ともす)大いそやぬき討(うちに)する平つかを拳(こふし)ににぎる
藤沢(ふちさわ)もよるの水 音(をと)物すこく。とつかはとして逃(にげ)道を。いかほと
かやと物とへどそちや聾(つんほ)のかな川の耳(みゝ)ならなくに穴(あな)ふたつ
是なん仁田(にた)忠(たゞ)つねか地獄廻(ぢこくまはり)をするかなるふしの人 穴(あな)あな賢(かしこ)
語(かた)らぬ筈(はづ)の一大 事(じ)もらせし水の川 崎(さき)に大 師(し)河原(かはら)のゑん
ぎ 帳(ちやう)流沙(りうさ)のすなのいくばくか昔(むかし)渡りし五 天竺(てんぢく)四百 余州(よしう)
の事那(しな)川に名を響(ひゞか)する鈴(すゝ)の森 梢(こずえ)下枝のなをしげく