翻刻
真 言(こん)流布(るふ)の日本橋 祈 祷(たう)成就(しやうしう)円 満(まん)にさかふる花の江戸に着ぬ
二 深川の底(そこ)ぬけ上戸 彩色(さいしき)の赤人形
橋(はし)がなふて渡(わたり)がならぬ深川といふ所に。知る人を尋(たすね)小家をかりて
住(すま)居けり。ねめ介いふは御 当地(とうち)の風 俗(そく)をかねて承(うけたまわ)るに。京 生立(そだち)の
生(なま)ぬるき取なり物いひは下りものとやらん申て髭奴(ひけやつこ)の口にかけて
笑(わら)ひ草にいたすと。されは万きつとして身の取まはししやん〳〵
と分際(ふんざい)より気(き)をふとく持(もた)ては所(ところ)の風にあい申事で御わりま
すまひし。不(おほへ)_レ覚(す)不(しら)_レ知(す)はや巻舌(まきした)にいひちらして笑へは筍斎も
笑ひて其分は気遣(きづかひ)せそ。何事が何時(なんとき)用に立ふもしれぬ某(それがし)
日比酒すく事。此 度(たひ)の用にこそたてひとつのふでは。いとゞだに
ふとく成よきいきみ玉光めてたき時にあひて工界(くかい)をひろく
むさしのと出るに便(たより)あり
武蔵(むさし)のゝ広(ひろ)ひ所を引うけて人のこゝろを一のみにせん
といひければ。ねめ介あきれ是は余(あまり)に口ひろしと我(が)をおる。いてや
かく隠住(かくれすむ)計には世人(せじん)更(さら)にしる事 非(あら)じ。看板(かんばん)を出さん但(たゞし)故(こ)竹
斎が。へんじやくやぎばにもまさると狂歌(きやうか)せしは嘲(あざけり)の種(たね)不 吉(きつ)の
例(れい)なればとて歌(うた)はやめぬ。扨人 形作(ぎやうつく)りを呼(よん)で。自(みづから)のざうを誂(あつらふ)
工人(かうじん)筍斎が貌(かほ)かたち取(とり)なりを図(づ)するに吹(ふき)出す計おかしけれど。
笑(わら)われもせずうけ取ぬ。手を尽(つくし)刻(きざむ)ほどに日を経(へ)てもて来りけり
其ざうといつは。天性(うまれつき)なれば口 狼(おほかみ)のごとく鼻(はな)のひくさは。額(ひたい)より
遥(はるか)ふもとにたれ。まじりさがり黒庖跡(くろみつちや)の引つりに。痣(あざ)黒子(ほくろ)さ
へおほく頷(をとがひ)なかく頬(ほう)たれて。頸(くび)の大さ胴(どう)にひとしく。表(おもて)口より
【参照資料:国会図書館デジタルコレクション>浮世草紙刊行会叢書>第1巻>新竹斎>巻之四-二 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/953502/186】