翻刻
頭(つぶり)のうら行町 並(なみ)にはづれ手足ふつゝかに指(ゆび)みじかく。右に匕(さじ)をか
まへ左(ひだり)をほうづえし薬(くすり)調合(てうがう)加 減(げん)思案(しあん)の所を一 毛(もう)も違(たが)は
ず作(つくり)なせり。我ながら我(わが)かたちの希有(けう)に鈍(どん)なるに。よこ手
を打て。扨(さて)もそなたは人におかしがらするやうに。ない所 迄(まで)つく
りそへられた事よと。まだ是ほどに不 具(ぐ)なるとはいはず。作者(さくしや)は
あいさつの仕(し)やうにこまりおかしさをねんして口に手あてゝ
帰る。女房め介ねなどふき出して笑(わらふ)扨一 枚板(まいいた)に自讃(じさん)をかく
一 夫(それ)日本にお医者方(いしやかた)おほしと申せど筍斎か家(いへ)の
りやうぢと云は仙受(せんぢゆ)神秘(じんひ)の妙方(めうほう)一 子相伝(しさうでん)の外
更(さら)につたへず。若此方ゟおしへんと申てもかぶり
をふつて習(ならふ)ものなければおのづから我(わ)が家の重宝(てうほう)
となつて他家(たけ)にしることなし。是おそら〱は我流(わがりう)
きまゝの一方おほへにくきがいたす所也こゝにばう
ふ竹さいひろくきめうを仕(し)ありき養生(やうしやう)薬にて
なき病を出しかろきはおもくなして外のくすしに
手がらをさする。おもふに下ぢをなまぞこなひにしたる
とくか。あるはおもきは一二ふくにてらちあくるいけて思ひ
をさせうゟきさんじなる事さすがらうこうのいたりと
我計がをほる予其 的伝(てきでん)をついで。そのふにあそぶ。とら
のいきほひ千里一はね何ほど大医(い)にならふもしらず。今
心 安(やす)き間にたながりうら住のかろきものどものぞみならば
見てとらせん参り候へ参り候へ花洛全盛庵(くわらくぜんせいあん)
年号月日 薮内筍斎
と書(かき)て木偶(もくぐう)にそへてかんばんを出しけり
三 道戯(どうけ)の初 看板(かんばん)大 笑(わらひ)の口あけ
筍斎が。かはつたかんばんに。やれ〳〵かのそこに珍(めづら)なる医師(いし)のかんばん
こそ出たれと。貴賎(きせん)見物(けんぶつ)にきて腹(はら)をかゝゆる。中に小賢者(こさかしきもの)が是は
たゞ木引堺(こびきさかい)町の小見せ物の手にてなき事 作(つく)るおどけ者(もの)の
人よせなるべし。誠の筍斎といふもの。いかゞ是ほどにはと作病(さくびやう)
【参照資料:国会図書館デジタルコレクション>浮世草紙刊行会叢書>第1巻>新竹斎>巻之四-三 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/953502/188】