翻刻
わけにて大勢/居(お)るときはこの上(うえ)に出す法を幾度(いくど)も行ふて氣を入れ
代(か)ゆべしさればとて病人寒さを覚(おぼゆ)るほどに風の來るは宜(よろ)しからず此處(このところ)
に斟酌(しんしやく)して感温(かんをん)【「サムサアタヽカサ」左ルビ】のぐあひほとよきよふになすべし又疫熱はこれを
看護(かんご)する人に傳染(でんせん)するはもとより論(ろん)なくその近隣(きんりん)にも傳染(でんせん)する
ことあるゆへに 本邦(ほんほう)昔(いにしへ)よりの風習(ふうしう)【「ナラハセ」左ルビ】にてその看病人(かんひやうにん)は鼻(はな)には龍脳(りうのう)麝(じや)
香(かう)の如(こと)き芳辛香竄(ほうしんかうざん)【「カヲリニホウ」左ルビ】の物(もの)を塗(ぬ)り其(その)側室(わきべや)には沈香(ぢんかう)蒼术(そうしゆつ)【「ヲケラ」左ルビ】等(とう)を炷(た)き其近隣
にても蒼木【术】陳皮(ちんひ)杜松木(とせうぼく)【「ソチレマツ」左ルビ】等はいふに及ばず干(ほ)し鰑(するめ)の類(るい)にても炷(た)きて
其/毒氣(どくき)を避(さけ)んとす按(あん)ずるにこれはよき法にあらず益(ゑき)なくにして害(がい)
多(おゝ)し行(をこな)ふべからず物(もの)を薫(くん)【「カヲラセ」左ルビ】してこれを避(さく)るのよき法いく通(とふり)りもあり一法(いつほう)
に蒸露罐(しやうろくわん)【「ランビキ」左ルビ】にてひきたる醋(す)を藁(わら)などの箒(はゝき)の先にひたしこれを揮(ふる)つ
て壁戸(へきと)に漉(そゝ)ぎかけ土鍋(どなべ)に龍脳醋(りうのうさく)《割書:下にい|だす》を入(い)れ微火(びくわ)にて温(あた)ため其/蒸(ゆ)
氣(げ)を室内(しつない)に満(みた)しめ時々(とき〴〵)かくの如(ごと)くになすなり又(また)法爐(ほうろ)の上(うへ)に鍋(なべ)を
かけこれに灰(はい)と砂(すな)とを入(い)れ焼(やき)ものゝ壺(つほ)をとりて其半(そのなか)ば頃(ごろ)まで埋(うづ)
めその内(うち)に海塩(うみしほ)を入(い)れ灰(はい)砂(すな)及(およ)び塩(しほ)も温(あたゝか)になるたるとき緑礬酸(りよくばんさん)【「ロウハノス」左ルビ】