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翻刻
二五六
境内には俗に沙羅双樹と呼ぶ大小二本の樹がありますが、実はや
まぼうしと云ふ木で大きな木ではありませんが珍らしい木だといは
れてゐます。
坂本古鐘 は蒲郡から北へ一里許り坂本の大塚寺といふ無住の小
寺にあります。この鐘は今廃寺となつた薬勝寺のものでして、一時
安楽寺に預けてあつたといひますが後年こゝに納まつたものと見え
ます。寛喜二年のもので箱根から鈴鹿までの間で第一等の古鐘です
この鐘は一時所在を失ひ、人々から惜まれてゐたのを数年前私が友
人と手を尽し捜し当てたもので、山上無住のこんな小寺にあらうと
は思ひがけ□【ま?】せんでした。
銘文は陽鋳で、これを鋳造した行範は五井城を築いた蔵人行家の
父で熊野新宮の別当湛海の孫に当るとか聞きましたが、これは将来
国宝に指定される可能性あるものと思ひます。
長泉寺 は五井にありまして創立は寺伝によると神亀年中行基
の開創となり、これを建久年中、安達藤九郎盛長が再興したと伝へ
て居ます。この盛長の造営した寺が三河に七ヶ寺ありまして、これ
を三河七御堂といひ、普門寺、法言寺、財賀寺、鳳来寺、御堂山そ
れにこの寺と西三河の金蓮寺といふ事になつゐます。
仏像には行基の作と伝へる千手観音像、慧心僧都の作と伝へられ
る薬師三尊、運慶の作と伝へる不動、毘沙門の二像もあり、又境内
には安達盛長の墓や松平家の墓もあります。
次は形原方面のことを申上げませう。形原は宝飯郡の西端、幡豆
郡に接した処で、和名抄にも載り或は昔慶雲が見えたといふやう
なことも伝はつてゐます。殆んど漁村ですが、こゝに式内官社が
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