翻刻
【右丁】
にして只なにとなく心を臍下丹田(さいかたんでん)《割書:臍(へそ)のした三寸|を丹田といふ》に
おさめ気をして周身(しうしん)にみたしむるにありて此 術(じゆつ)を
孟子は浩然(かうぜん)の気を養(やしの)ふと云 禅家(ぜんけ)にはまたこれを
不生の術ともいひ或は恬澹(てんたん)虚無(きよぶ)なるときは精神(せいしん)
内を守ると有りて平生(へいせい)起居(ききよ)動作(どふさ)にもかくのごとく
に心を用るときは神気(しんき)の守り宜敷故 五臓六腑(ごぞうろつふ)こと
〴〵く居処(ゐところ)を守りて安寧(あんねい)なりされど座禅(ざぜん)の術
などをもしひてこれをつとめんとして眠(ねむ)り抔(など)する
ときは仮(か)り寝(ね)の中(うち)といへども神気(しんき)心臓(しんぞう)に集(あつま)り四廓(しくわく)の
護(まもり)なき故に邪気外廓を襲(おそふ)て却(かへつ)て養生の害を
【左丁】
なき人(ひと)寝(いぬ)る時は神気心臓へ集る故に衣衾(ふとん)をかりて
外体(くわいたい)を守らしむるなり故に只(たゞ)座(さ)する時の心持(こゝろもち)は神気
を丹田(たんでん)におさめ思念(しねん)をさり眠(ねむ)りたる時のごとくにて
然(しか)も目(め)にさへきる物は見(み)へ鼻(はな)に匂(かを)るものは薫(かお)り耳(みゝ)へ
渡(わた)るものは聞(きこ)へするを是を不生の術(じゆつ)とも浩然(かうぜん)の
気を養(やしな)ふとも心を養ふともいふなりしかれとも
しひてこれを守ることの愚(ぐ)なるときはたとへは
家宅(かたく)を大事とおもふがまゝに戸障子(とせうじ)をももし
開閉(あけたて)の為(ため)に傷(そこな)ひやせん席(せき)も歩行(ほこう)の為(ため)に破(やぶ)れや
せんとて一室(いつしつ)にとりこもりて居る時はその家宅(かたく)