翻刻
【右丁】
けり。《振り仮名:しは〳〵いき|とたへもなしさい〳〵ゆきけれど也》けれど《振り仮名:猶いとうしろめだくさりとて|なをさらに女の心たのもしけもなくてうたかはしくは思へと也》《振り仮名:いかではたえ|(ゆかてもまたゑあらさる也》有まじ
かりけり。《振り仮名:猶はたえあらざりける中|(われといさめてゆかしと思ふて心ひかれてすてかたき也》なりければ。二日《振り仮名:三|ミ》日斗さはること有て。えいかで
かくなん
《割書:新古今》出てこしあとだにいまだかはらじをたがかよひぢと今はなるらん
ものうたがはしさによめるなりけり
(四十三)昔。《振り仮名:かやのみこと|桓武帝第七皇子》申みこ。おはしましけり。其みこ《振り仮名:女をおほしめして|(恋にはあらすたゝあはれみ給ふ也》
いと《振り仮名:かしこく|(かたしけなく也》めぐみつかふ給ひけるを。《振り仮名:人なまめきて|(なりひら思ひかくる也》有けるを。我のみと
おもひけるを。《振り仮名:又人きゝ付てふみ|(またかよふ人有ことなりひら聞付て也》やる。ほとゝきすの《振り仮名:かたをかきて|(ゑにかきたるにや》
ほとゝぎすながなくさとのあまたあればなをうとまれぬ思ふ物から
といへりこの女《振り仮名:かなしきを|(きけんをとりて也》とりて
名のみたつしでのたをさはけさそ鳴いほりあまたとうとまれぬれ
時はさ月になんありける。おとこかへし
いほりおほきしでのたをさはなを頼む我《振り仮名:住里にこゑしたえ|(われさへすてすはなをたのむと也》ずは
(四十四) 昔。《振り仮名:あがた|田舎也》へ《振り仮名:行人|(有つね也》に。《振り仮名:馬のはな|(かどでのいはひ也》むけせんとて。よびて。うとき人にしあらざり
【左丁】
ければ。《振り仮名:いへどうじ|(わかつま也》盃させて。女の《振り仮名:さうそくかづけんとす。|(裳から衣なるべし》《振り仮名:かづけんと|(やらんとする也》す。あるじの男。《振り仮名:哥読て。|(うたよむ也》もの こし(腰也)にゆひ
付さす
出て行君がためにとぬぎつれば我さへ《振り仮名:もなく成ぬべき哉|《割書:(裳を喪(モ)によめり喪はわざはひひのこゝろ也|わざはひなきといふ心なり》》
此哥は有が中におもしろければ心《振り仮名:とゞめてよます。|なりひらよみて女によまする也》《振り仮名:はらにあぢはひて|ふかくあちはひきんみしてよみしと也》
(四十五) 昔。男。有けり。人のむすめの《振り仮名:かしづく。|(親のいつきかしづく也》《振り仮名:いかで此|(いかゝして也》男に物いはんと思ひけり。《振り仮名:打出|(詞にいひ出》
《振り仮名:んこと|(んと也》かたくや有けん物やみに成て。しぬべき時に。かくこそ思ひしかといひけるを。
おや聞付て《振り仮名:なく〳〵つげ|(なりひらにつけしらする也》たりければ。《振り仮名:まとひ来り|(なりひらいそぎ来れる也》けれど。《振り仮名:しに|(女か》ければ。
《振り仮名:つれ〴〵とこもり|(病故に死たる女なれはいみにこもりゐる也》をりけり。時は《振り仮名:みな|(六月也》月の晦日いとあつきころほひに。
よひはあそひおりて。夜ふけてやゝすゞしき風吹けり。蛍たかうとびあがる。此
《振り仮名:おとこ|(なりひら也》見ふせりて
《割書:後撰》ゆく蛍雲のうへまでいぬべくは秋風ふくとかりにつけこせ
くれがたき夏の日ぐらしながむればそのことゝなく物ぞかなしき
(四十六) 昔。男。いとうるはしき友有けり。かた時さらずあひ思ひけるを。人の
国へいきけるを。いと《振り仮名:あはれ|(かなしく也》と思ひてわかれにけり。《振り仮名:月日|(ゐなかより》へてをこせたる