翻刻
【右丁】
くれなゐににほふはいづらしらぎくのえだもとをゝにふるかともみゆ
おとこ((なりひら也)しらずよみによみける((とりあはすかたの心しらぬかほによむ也) 《割書:たはむこと也菊もたはむと見ゆるになりひらは|いろなくこなたへたはまぬといへるなり》
くれなゐににほふがうへのしらぎくは《振り仮名:おりける人の袖かとも見ゆ |(女にあてかへしてそなたのうつろひやすき心のやうみゆると也》
(十九) むかし。おとこ。《振り仮名:みやづかへしける女|(わかみやつかへせし染殿の女御のかたに也》のかたに。こだちなりける((召つかはるゝ女ばら也)
人を《振り仮名:あひしりた|(たかひに心かよはす也》りける。ほどもなく《振り仮名:かれにけり|(かれ〳〵になる也》。おなじ所なれば
女の《振り仮名:めには見ゆる|(つねにめにはあはれる也》ものから。《振り仮名:男はある物か|(なりひらはみぬかほ也》ともおもひたらず。女
《割書:古今》あまぐものよそにも人のなりゆくかさすがにめには見ゆる物から
と。よめりければ。おとこかへし
《割書:古今》あまぐものよそにのみしてふることはわが入《振り仮名:山の風はやみなり |《割書:(よそに心の有人にはちかつきかたしといふ| うたの心なり》》
と。よめりけるは。《振り仮名:またお|(外の男也》とこある人となんいひける
(二十) むかし。おとこやまとにある女を。《振り仮名:よばひ|しのひて也》あひにけり。扨ほど
へて。《振り仮名:みやづかへする人なり|(なりひらきんちうにつかふる人なれば也》ければ。《振り仮名:かへ|(帰来也》りくる道に。やよひ《振り仮名:ばか|(比也 》りに
《振り仮名:かえでのも|(わかばの色これ也》みぢの。いとおもしろきをおりて。女のもとに道よりいひやる
【左丁】
君がためたをれるえだは春ながらかくこそ秋のもみぢしにけり
とて。やりたりければ。返事は京にきつきてなん。もてきたりける
いつのまにうつろふ色のつきぬらん君が里には春なかるらし
(二十一) むかし。男。女いと《振り仮名:かし|(かたく也》こく《振り仮名:思ひかは|(思ひあひて也》して《振り仮名:こと心|(ふた心也》なかりけり。《振り仮名:さるを|(しかるを也》
《振り仮名:いか成ことかあ|男にはおほくなきことなるへし》りけん。いさゝかなる事に付 ̄ケて。世の中をうしと思ひて。
出ていなんと思ひて。かゝるうたをなんよ ̄ンみて。物に書付 ̄ケける
いてゝいなば心かるしといひやせん世の有さまを人はしらねば
と。よみをきて。出ていにけり。此女かく書をきたるを。《振り仮名:けしう|(あやしけに也》《振り仮名:心をくへき事も覚え|(何のかたみかとも心覚えぬこと也》
ぬを。何によりてか。《振り仮名:かゝらんと|(かくは有らんと也》いといたうなきて。いつかたにもとめゆかんと。
かどに出て。《振り仮名:とみかうみ見けれと|とかく見けれと也見は休字のてには也》。いづこをはかりとも覚えざりければ。かへり入て
思ふかひなき世なりけり年月をあだにちぎりて我やすまひし
といひてながめをり
人はいさ思ひやすらん玉かづらおもかげにのみいとゞ見えつつ【「る」では】