翻刻
【右丁】
後(のち)小瘡(ちいさきでもの)となりて日久(ひひさ)しく愈(いへ)ざるものは少々(せう〳〵)あた
ふべし又/鴿(いへばと)の一/種(しゆ)あり毒あり食(しよく)すべからず
一/鶉(うづら) 毒なし五臓(こぞう)を補(おきな)ひ中気(ちうき)をまし筋骨(すじほね)をつよく
すといへども痘中(とうちう)あたふべからず痘後(とうご)全快(ぜんくわい)す
るをまつて塩噌(ゑんそ)に和(くわ)し煮(に)喰(くら)ふべし又/告天子(ひばり)も
功能(こうのう)鶉(うづら)に同(おな)じ
一/雀(すゝめ) 毒(どく)なし痘中痘後(とうちうとうこ)禁(きん)ずべし又痘後/目疾(めをやむ)もの
雀(すゞめ)の頭頂(かしら)の血(ち)をとりて眼中(かんちう)に点薬(さしくすり)となすもの
ありといへどもいまだ其功(そのこう)を見ず大抵(たいてい)痘後(とうご)余(よ)
どく目中(めのうち)に入(い)るものは指薬(さしくすり)を大に忌(い)むべし
【左丁】
目(め)の瞳子(くろたま)傷潰(やぶりついやし)て廃人(かたわ)となるといへり故(ゆへ)に妄(みだり)に目中(めのうち)に
さしぐすりをする事を禁(きん)ぜよ又/椋鳥(むくどり)比衣鳥(ひへとり)みな
毒なしといへども痘中痘後百日/禁(きんじ)て与(あと)ふべからず
一/兎(うさぎ) 毒(どく)なし血(ち)を涼(すゞしく)し熱(ねつ)を解(げ)す大腸(たいてう)を利(り)すゆへに
痘中用ゆるを忌(い)め又/臘月(しわす)八日の朝(あさ)霜露(しもつゆ)をのみたる
兎(うさぎ)をとりて痘前(とうまえ)に食(しよく)するときは出瘡(でもの)稀少(すくなし)といふ
説(せつ)ありといへどもいまだその功(こう)を見(み)ず又/預(あらかじめ)稀痘(きとう)の
薬(くすり)に兎血丸(とけつくわん)兎紅丸(とこうくわん)の類(るい)あり往々(おう〳〵)是(これ)を用(もち)ひて未(いま)だ
其功(そのこう)を見(み)ず尤これは古(むかし)よりのまじないなるべし
随分(すいぶん)用ひて妨(さまたけ)なしあたふべし
現代語訳
【右丁】
後に小さなできものとなって長期間治らないものには少々与えて
よい。また家鳩の一種で毒があるものがあり、食べてはならない。
一 鶉(ウズラ) 毒はない。五臓を補い中気を増し筋骨を強く
するといっても痘中は与えてはならない。痘後完全に回復
するのを待って塩味噌に和えて煮て食べるべきである。また雲雀も
効能は鶉と同じである。
一 雀(スズメ) 毒はない。痘中・痘後は禁ずるべきである。また痘後に目を患うものに
雀の頭頂部の血を取って眼中に点眼薬とするものが
あるといっても、まだその効果を見ていない。大抵痘後の余
毒が目中に入るものは点眼薬を大いに忌むべきである。
【左丁】
目の瞳孔を傷つけ潰して廃人となるといわれている。故にみだりに目中に
点眼薬をすることを禁じよ。また椋鳥・比衣鳥もみな
毒はないといっても痘中・痘後百日間禁じて与えてはならない。
一 兎(ウサギ) 毒はない。血を涼しくし熱を解し大腸を利すゆえに
痘中用いることを忌め。また臘月八日の朝に霜露を飲んだ
兎を取って痘前に食するときは出る瘡が少ないという
説があるといってもまだその効果を見ていない。また予め稀痘の
薬に兎血丸・兎紅丸の類があり、しばしばこれを用いてもまだ
その効果を見ていない。もっともこれは昔からのまじないであろう。
随分用いて害はない、与えてよい。