翻刻
【右頁上段 図中囲みの題】
食(じき)よく
【台所の図 中央では鯛を捌き、右脇では火を使っての調理、すり鉢での下ごしらえ 左端は配膳や下準備などに追われる人々の描写】、
又 息才(そくさい)なる人も目の前(まへ)に大 事(じ)の病者(びやうじや)と成て前後(ぜんご)しらず。た
ふれふす。祝儀(しうぎ)の酒もりなどにてはいま〳〵敷事成べし明(あく)る日まで
頭(かしら)いたく物くはず。生(しやう)をかへたるごとくにて。昨日(きのふ)の事を覚えず。大事の所用(しよやう)を
かきて煩(わづら)ひと成。かゝる馳走(ちそう)は慈悲(じひ)にもあらず礼儀(れいぎ)にも背(そむ)きたる事也
▲人よりあたをする時に我又あたにてかへさんとすれば。さき又あたをなし
生(しやう)〻(〳〵)世(せ)〻(ゝ)にあたつくる事なし。あたをは恩(をん)にて報(はう)ずべし。先(さき)又 恩(をん)にて
報(はう)ずる物也。若(もし)その者(もの)報ぜず共。諸(しよ)天よりはうずるといへり
▲万の事十 分(ぶん)なればこぼれ出て跡(あと)へわざはひ入といへり。万の食(しよく)みてゝ
口にいさぎよき事あれば病おこる也。水を呑(のみ)ていさぎよきは少の間也
腹(はら)へあたりてやむは久しく苦敷(くるしき)也。病(やまひ)も起(をこ)りて後(のち)治(ぢ)せんとするより。前に
よくふせぐべし。わざはひもをこりて後。おさめんとせんより常(つね)〻(〳〵)能(よく)つゝしむべし
▲食(しよく)はつねに少なく喰えば脾胃(ひい)をやしなひ。五臓うるをひ。長命也。大食は溢(あふ)れ
て五臓の毒(どく)となる。たとへは多欲(たよく)は身を破(やぶ)り。小欲は身をたすくるがごとし。
山椒(さんしやう)を多(をゝく)くへば真氣(しんき)を散(さん)じ物を忘(わす)るゝ也。薬(くすり)も不断(ふだん)飲(のめ)ばきかず。きうも
たへずすればきかぬ物也。人え異見(いけん)をいふにも。不断(ふだん)いへばきかず。間(ま)をおきて
いへば恥(はぢ)て聞くがごとし一切の初(はつ)ものを先(まづ)少つゝ喰(くひ)。連とには多(をゝ)くくひてもあたら
ぬ物也。薬のきくも毒(どく)のあたるも同じ事也。湯(ゆ)の山の人 常(つね)に入故きゝうすき如(ごとし)
▲上 手(ず)成 醫者(いしや)のあやまるはまれ也。まれ成あやまりを以てへたといふべきや。へた
なるいしやの仕(し)あつるはまれ也。まれに仕(し)あてたるを以て上手とすべきや。 醫者(いしや)の
あやまりはまれに有物也。 愚者(ぐしや)は一切の事にあやまらざることなし
【左頁上段 図中囲みの題】
色(しき)よく
【遊郭のお座敷】
▲我身のあしきをいふ人あらば。是こそ我 師(し)也と思ひて近付くべし。我(わが)よきを云(いふ)者
あらば。是わが為にあた成と思ひしりぞくべし。又我いふ事を。それもよし。是も
よしといふひとはまじはりてもせんなし。拙(つたな)き者(もの)は必(かなら)ず我あやまちをばかざる故
あしきといふ人をばいむもの也。君子(くんし)はあやまちをかくす事なくはやく改(あらため)て
非(ひ)をなをすといへり。常に人に勝(かた)んと思ふ心を止(やめ)て。わが智(ちへ)のたらざる事を。う
れふべし。人のいふ事の合点(がてん)ゆかぬをば返して聞べし。其 理(り)くはしくさとる也
▲欲(よく)をはなれては世のなかに腹立(はらたつ)事はなき物也。おしやほしやの欲(よく)よりいかりは
おこる也。貪欲(とんよく)を止(やむ)る時は一切の苦(く)もやみいかりもやむ物也。一念にいかりを
おこせば九ていこうの善根(せんごん)きゆるといへり。しんゐの火は即(すなはち)地ごくの火也
▲悪としらばわづか也ともなすべからず。小悪をいとはぬ者(もの)は必ず大悪へたつり
やすし。たとへば一銭の勝負(せうぶ)を。是はわづかなりとてする者は後は万銭の
勝負をもするがごとし。一善をなす者は必(かなら)ず万善(まんぜん)を思ひ我のみにあらず
人まですぐなる事を願(ねが)ふもの也。心もすなをにして正 道(たう)成こそ人の道也
▲無理(むり)成おやにてもよくしたがふが子の孝行(かう〳〵)なり。然るに■■へ年
よりたる親をばないがしろにしていふ事をも用ひず万に胆(きも)いらせ。親のひを
あげ我手がらをば顕(あら)はすやから数おほし。しかもさやうの者所帯(しよたい)を■持(もち)
くづし。其時はかへつて親先祖(をやせんぞ)をもうらむる物也。親を不 孝(かう)せしものは
天 然(ねん)のゐんぐはにて又我子に不孝せらるゝ物なり。父はちゝたらずと云
とも子は子のみちをつくすがまことなり。仏法のなき国にては。父(ふ)
母孝養(ぼけうやう)のくどくを以て仏国へ生るゝといへり。よく〳〵心得べき事也