東京学芸大学「学びと遊びの歴史」を翻刻!

コレクション: コレクション 1

女源氏教訓鑑 - 翻刻

女源氏教訓鑑 - ページ 16

ページ: 16

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【右頁上段】 《割書:小野小町|一代由来》七(なゝ)小(こ)町(まち)物(もの)語(がたり)《割書:◯さうしあらひ|◯雨ごひ小町|◯かよひ小町|◯せき寺小町》《割書:◯そとは小町|◯あふむ小町|◯きよ水小町》 【本文】 小町は小野氏(をのうぢ)にて。其 先祖(せんぞ)を尋(たずぬ)れば。孝照天皇(かうせうてんわう)の御 子(こ) 天(あま)の たるひこおしくにの尊(みこと)より傳(つたは)りて。代々 近江(あふみ)の国。志 賀(か)のこほり 小野ゝ里に住(すむ)人也。依(よつ)て氏をかくいへり。父(ちゝ)の名はよしざ◯仁明(にんみやう) 天皇の御時。出羽(では)のぐんじになされたり。小町は其生れつき 誠にようがんびれいにて。色どりかざりをかゝざれ共だん くわの口びる桂のまゆ。かんばせは桃花(とうくわ)のごとく。はだへは 梨花(りくわ)にことならず。尤(もつとも)其時にぬきんでゝ。世上(せじやう)第一の美(び)人 なり。年(とし)若(わか)き人々心まよはずといふ事なく。筆(ふで)に つくし文(ぶん)をかざりて契(ちぎり)をもとむれども。父のぐんじ望(のぞ)み 有けるにや。堅(かたく)せいしてゆるさゞりければ。おのづからつれな かりけると也。元来(もとより)和哥(わか)をよく読(よみ)て代(いろ)々(〳〵)の集(しう)にゑらひ のせられ末(すへ)の世ゝ迄もとめる名をのこせり。小町が娣も能(よく) 哥よめるかし伝記(でんき)に見えたり。古今の序(じよ)に。小野々小町は 古(いに)しへの衣通(そとをり)姫のなかれ也。あはれなるやうにてつよからず。 いはゞよきおうなのなやめる所あるに似たり。つよからぬは。女 の哥なれば成べしと云々。右あらましは本 伝(でん)のをもむき也。 又玉つくり小町とて別人(べつじん)あるよしの説(せつ)あり。くわしく罷しる べき事也。七小町といふは。さうし謡(うたひ)ものなどに 出たる事なれば 只哥物語のたぐひに打任せて。是よりくはしき道に入べしと也 【左頁】 「さうし洗(あらひ)小町」 【上下左右に鉤かっこ付】            むかし大裏(だいり)にて御哥合の有ける           に。小町の相手(あいて)には大友(おほとも)の黒主(くろぬし)を     さだめられて小町には水辺(すいへん)の草(くさ)といふ題(だい)を遣(つか)はされ たり。黒主つく〳〵と思はれけるは。小町はすぐれたる哥の 上 手(ず)なれば。相手にはかなふまじ。何とそして其よむ所 の哥を聞出し。其うへにはからふべしと。小町のやかたに しのび行て立聞をせられしに。小町はかくぞともしらで 明日(あす)の哥 読(よま)ばやと。哥の題(だい)を取出してかくぞ詠(ゑい)ぜられたり 哥【丸で囲む】まかなくに何を種(たね)とてうき草の。浪(なみ)のうね〳〵おひしげるらん と読(よみ)。我ながら出来(でき)たりと悦(よろこ)び。たんざくに写(うつ)されたるを。 黒主物かげより聞すまし。やがて万葉集(まんようしう)にかき入て 置(をか)れけり。かくて翌日(よくじつ)清涼殿(せいれうでん)にて小町をはじめ。凡河内(おうちかうちの) 躬恒(みつね)。紀貫之(きのつらゆき)。壬生忠岑(みふのたゞみね)。左右(さう)にちやくざ有て。おの〳〵 哥を吟ぜられけるとき。小町が哥に過(すぐ)るはあらじとゑいかん【叡感】 ありければ。黒主是は万葉に入たる古哥也とて。すなはち したゝめか書たる本をゑいらんに入られたり。小町はおどろき涙に くれ。万葉集は我もしれるが。いか成家の本ぞやとくりかへし ながめて。此すみ色のあたらしく。文字(もじ)もしどろ成こそふしん に候へ洗(あら)ひて見侍候ふべしとそうもん申 ̄シ やがて御前にてあら はれければまかなくの哥斗。一字も残らず流(なが)れうせたり。 黒主大にはちて。じがい仕るべしと立けるを。御門御とゞめ有て 是皆和哥を大 切(せつ)に思ふより致(いたす)所也とて。却(かへつ)て御かん【感】有けると也