翻刻
【右丁上段】
【見出し】祇園會(きをんゑ)行烈(ぎやうれつ)之(の)図(づ)
【小見出し】長刀鉾(なきなたほこ)
四条通 烏丸(からすまる)の東(ひかし)
東洞院(ひかしのとい)の西より出る也
〇此長刀は三条 小鍛冶宗親(こかぢむねちか)が
作
実(み)の長《割書:サ|》四尺 心(なかこ)壱尺
惣(そう)寸五尺なり。此長刀あらたにして
疫病(やくびやう)瘧病(をこりやみ)に戴(いたゞ)かする時 平念(へいゆ)する事
忽(たちまち)にしてさま〴〵霊験奇瑞(れいけんきずい)多(をゝ)し
中ご短(みじか)くて難義(なんぎ)なる故
法橋(ほつきやう)和泉守(いつみのかみ)来金道(らいきんみち)寄進(きしん)仕《割書:リ|》
長《割書:サ|》八尺実(み)四尺
心四尺なり
古釼(こけん)
納置(をさめおき)近代(きんたい)
此長刀を鉾に用る也
【右丁下段】
「はゝ木々【源氏香の図】」【見出し語の上下左右に鉤かっこ】
此巻は哥の詞をもつて名つけ
たる也。光源氏の十六歳のとき。
御うちの人いよの介(すけ)といふものゝ家(いゑ)。中(なか)川といふに
御いでありて。ひうかにいよの介がつまうつせみの君
のもとへ忍ひて逢(あひ)給ひてのち。うつせみの弟小君(こきみ)と
いふを御 使(つかひ)にて御みつかはされけれ共。うつせみは
世のきこえ身をはぢてかくれて逢たてまつらす
その時けんしよみてやり給ふ〽はゝきゞの心もし
らでそのはらのみちにあやなくまどひぬるかな
此哥のはゝ木ゞといへるは美濃(みの)の国と信濃(しなのゝ)の【送り仮名の重複】国
の境(さかひ)に。そのはらふせ屋といふ所(ところ)に木あり。其木を
とほくよりみれは箒(はゝき)をたてたるやうにて近(ちかつき)て
みれはそれににたる木もなし。それゆへありとみて
あはぬ心にたとへていふこと也。哥心は。はゝ木々を有
と思ひて立(たち)よりてみれは。みうしなふといゝならはし
たるに。いまうつせみを見うしなひたるよとの心也。
うつせみかへし〽かすならぬふせ屋におふる身のう
さにあるにもあらできゆるはゝ木々〇此心はかすなら
ぬわかいやしき身なれ共。さだまりたるつまあるゆへ。
あるにもあられすかくれたるといへる心なり
【左丁上段】
【小見出し】天神山【▢で囲む】
油小路(あふらのこうち)
綾(あや)小路の
南より出る
〇天神は
菅丞相(かんしやう〴〵)の
霊(れい)なり
【小見出し】傘鉾(かさぼこ)【▢で囲む】四条
西洞院(にしのとい)の
西より出る
〇此 赤熊(しやぐま)を着(き)
棒(ぼう)ふりは昔(むかし)より
今に至(いたり)壬生村(みぶむら)の者毎年
出る役(やく)なり
【小見出し】太子山【▢で囲む】油小路高辻の
〇六 角堂(かくだう)の 北より出る
はじめは林(はやし)なりしを
聖徳太子はだの
守(まも)り【いつも肌につけておく守り】をかけ
ゆあみし給ひし故事也
【左丁下段】
空蝉(うつせみ)
うつ
せみ
の
身(み)を
かへて
ける
木(こ)の
もとに
猶(なを)人がらの
なつ
かしきかな