東京学芸大学「学びと遊びの歴史」を翻刻!

コレクション: コレクション 1

女源氏教訓鑑 - 翻刻

女源氏教訓鑑 - ページ 31

ページ: 31

翻刻

【右丁上段】  松(まつ)の山鏡(やまかゞみ) 松(まつ)山 鏡(かゞみ)といふは越後(ゑちご)の国。松の山家(が)にすむ人 そひなれし妻(つま)にはなれしが。息女(そくぢよ)ありしに。 此母むすめに死後(しご)に鏡一 面(めん)かたみに見よとて 残(のこ)しあたへけれ。うせし跡にて此 娘(むすめ)。かゞみに向(むか)へは 母の見え給ふ。母のじひ有 難(かた)き事よとかゞみに むかひこひしがりしを。父此よしを聞ふしきに思ひ。 かゞみにむかひ見ればさはなし。山 家(が)のこと なれば。かゞみなき里にて。此むすめ。はゝに よくにたりしゆへ我むかへは母とがてんし てけり父此わけをいひきかせ。ともに涙を もよほしけり。誠に哀といふもおろか也 【右丁下段】 【見出し】「花ちる里【源氏香の図】【見出し語の上部左右に飾り鉤かっこ。全体を▢で囲む】 此巻は哥をもつて名とせるなり。 源氏廿四歳五月の事也。源氏 中川のわたりへ忍ひてありき給ふ道に。ちいさき家 にてことをしらべておもしろく引ならす音。みゝ にとまりて。もと過給ひしことを思し召いで哥を よみていれ給ふ〽をちかへりえそしのばれぬほと とぎすほのかたらひしやとの垣(かき)ねに○此心は をちかへりはいくかへりともなく心也。もとかよひし所 なれば。ずい分かんにんしてすぎんと思へとも。たえ かたく思ふよと也。さてそれより入給ひて。昔(むかし) いまの御物かたりありけるに。ほとゝきす又鳴けれは よみ給ふ〽たちはなのかをなつかしみほとゝぎす 花ちるさとをたつねてそなく○此心は。たち はなのかはむかしをしのばるゝもの也。この人 ならではむかしの事かたりあひなくさむへき人 なし。それをなつかしく思ひてたつねまいりたるは ほとゝきすのたち花のかをなつかしかりてきて なくとをなしこと也とたとへたるなり此花ちる さとはきりつほのみかとの女御れいけいでんの御いもうと 三の君とてむかしけんしのあひ給ひし御方也 【左丁上段】  江口(ゑぐち) 江口といふは。川たけの【「ながれ」にかかる枕詞】ながれの女【遊女】なりしに 諸国(しよこく)一 見(けん)の僧(そう)江口の里(さと)に来り昔(むかし)かたりを思ひ 出。西行法師此所にて一 夜(や)の宿(やど)をかりけるに あるじの心なかりしかば○世の中をいとふ迄こそかた からめ。かりのやどりをおしむ君かなと古哥を吟(ぎん)し ければ江口の君の幽霊(ゆうれい)ことばをかはし失(うせ)にけり 僧弔(そうとふら)ひをなしければ月すみわたる河水に遊女 川船に乗(のり)あまた出さほの哥を諷(うたひ)【注】あそぶてい 人間にあいじやく【愛惜】のはなれがたなき事をのべしらしめ たちまちふげん菩薩とあらはれ。西のそらに 行給ひ六ぢん【塵】のまよひをしめし給ふ 【注 この字を「うたひ」と読むについてはコマ30の注を参照】 【左丁下段】  須磨(すま) うきめ   かる いせ  おの あまを  思ひ やれ もしほ  たるてふ  すまの  うらにて