東京学芸大学「学びと遊びの歴史」を翻刻!

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女源氏教訓鑑 - 翻刻

女源氏教訓鑑 - ページ 32

ページ: 32

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【右丁上段】  正儀世守(しやうぎせいしゆ) 正儀世守(しやうぎせいしゆ)は兄弟也。兄(あに)を正 儀(き)弟(おとゝ)を世守(せいしゆ)といふ 此兄弟の子の父を。左大臣公 討(うち)給ふ。兄弟 親(おや)の かたき左大臣公をねらひ。ある夜(よ)忍(しの)び入左大臣公を やす〳〵と討(うち)本望(ほんもう)を達(たつ)しぬ。しかるに国法(こくほう)とて 惣(そう)して人を討(うつ)たる者(もの)をたすけぬ法(ほう)にまかせ。兄 弟二人をからめ。其上役人(やくにん)え宣旨(せんじ)下り。申(さる)の一天 に誅(ちう)し申せとの御事也。すてに時刻(じこく)も来り ければ太刀ふり上けて切らんとする所へ女一人 見物(けんぶつ)の中をおしのけ来りつるきの下へ廻り。 子どもに取付 泣(なき)ゐたり。役人(やくにん)とがめていふやう。 いかに女。何とて大事の首(くび)の座へは直(なを)りけるぞ 【左丁上段】 女いふやう。何とてかれらを何しに誅(ちう)し 給ふぞ。されば。此 者(もの)共は今夜(こよひ)内裏(だいり)にしのび 入り。左大臣殿を討(うち)たる科(とが)により誅(ちう)するよ。 なふ其大臣殿は。かれらが為(ため)には親のかたき也。 敵(かたき)を討たる者をば陣(ぢん)の口をさへゆるさるゝと 申たとへの候物。役人こたへて。それはさる事 なれども。此くにの大法(たいほう)にて人を討たる者(もの)を たすけぬ法(ほう)よ。女いふやう。人討たる者をたすけ ぬ御法ならば。かれらが父を討し大臣殿を 何とて今(いま)まではたすけ給ふぞ。さればそれは 大人是は小人。いかで其身にたいすべき。女また いふ。いやしきを敵(かたき)とおもふべからず。かれらはいや しき者なれば。只うちすてゝ置給へと申せ ども。定(さだま)る法なれば是飛(ぜひ)なし。又女いふやう。 大臣殿は一人。是は二人討給ふはいかにといふ。役人 も道理(だうり)にせまり。さらば兄弟の内一人を切らん といふ。其時女いふやう。我は此子どもの母なり。 兄弟の身がはりに我を切たまへといへども。 替りはかなはず。壱人いづれ成とも出よと いふ。兄いづれば弟(をとゝ)いで。我切られんとたがい に死(し)をあらそひしが。兄の正 儀(ぎ)いふやう。我が いふ事をそむく不 孝(かう)なりといふ。世守(せいしゆ)こたへ 【右丁下段】 【見出し】「須磨【源氏香の図】【見出し語の上部左右に飾り鉤かっこ。全体を▢で囲む】 此巻は哥とことはとをとれり 源氏廿四歳の秋より廿五歳 の春まてをしるす。源氏の御 兄(あに)朱雀院(しゆしやくゐん)御 位の時花の宴にてあひそめ給ひしおほろ 月夜の内侍のことは。みかとの御心さしありけるに けんしのおはし給ふと聞えて。みかとの御母(おんはゝ)后(きさき)の 御はゝ立ありて。あしさまにきこえて。なかされ給ふ 御さたも有けるゆへ。けんし須磨へうつり給ふに よりて須磨の巻といへる也。みやす【「みやす」の右に「六条」と傍記】所よ【別本にて】り をくり給ふ御歌〽うきめかる【注①】いせおの【注②】あま【字母不明】を 思ひやれもしほたるてふすまのうらにて○ 此心はうきめかるいせおのあまとは。いせにゐ給ふ ゆへなり。ゆきひらのもしほたれつゝわふとこたへ よ【注③】とよめる須磨の浦にて。その心はわかごとくに うき住ゐより。いせおのあまの住かをも思し召 やれかしとの心也。○けんしの御返し〽いせ人の 波のうへこぐを舟【注④】にもうきめはからてのらまし ものを○此心は。いせへ御ともしたらは波の上こく あやうき目にはあふましき物をと也○此巻は 源氏 一部(いちふ)の■(かん)文(もん)【肝文ヵ。】也よく〳〵心をつくへし 【注① 「浮海布=水の上に浮いて見える海藻」と「憂き目」をかけている】 【注② 「お」は感動の助詞。伊勢の漁師にの意。】 【注③ 在原行平の歌、「わくらばに 問ふ人あらば 須磨の浦に 藻塩たれつつ 侘ぶとこたへよ」のこと。】 【注④ 「を舟」=「を」は接頭語。舟の意。】 【左丁下部】  明石(あかし) 秋(あき)の夜(よ)の  つき   げ【注⑤】の こま  よわが こふる 雲(くも)ゐを   かけ【駆け】れ 時(とき)のまも   みむ 【注⑤ 「月毛」=赤くて白みを帯びた馬の毛色】