翻刻
【右丁上段】
天津風(あまつかせ) 帰ら
ざるべき
ふけゐの
浦(うら)にゐるたづの
雲(くも) などか
ゐに
左 藤原清正(ふぢはらのきよまさ)
右 源順(みなもとのしたかふ) ける
水の面(をも)にてる
月なみを
秋 かぞふれ
の ば
もなか成 こよひぞ
左 藤原興風(ふぢはらのをきかぜ)
誰(たれ)をかも知(しる)人に
高砂(たかさご) せん
の
松もむかしの
友(とも)ならなくに
右 清原元輔(きよはらのもとすけ)
秋のゝの萩(はぎ)の
にしきを
鹿(しか)古郷(ふるさと)
のね に
ながら
うつしてしかな
【左丁上段】
左 坂上是則(さかのうへのこれのり)
みよしのゝ山の
白雪
つもるらし
ふるさとさむく
成まさる也
右 藤原元真(ふぢはらのもとさね)
さきにけり我(わか)
古(ふる)さとの
卯花(うのはな)は
垣(かき)ねに
きへぬ雪と見るまて
左 三条女蔵人(さんでうのによくらんど)
岩橋(いわはし)の 左近(さこん)
よるの契(ちぎ)りも
絶(たへ)ぬべし
明(あく)るわびしき
かづらきの神
右 藤原仲文(ふぢはらのなかふん)
有明(ありあけ)の月の光(ひか)り
を待(まつ)ほどに
我よのいたく
更(ふけ)にけるかな
【右丁中段】
【「月」の上には大きい○、「日」の上にはやや小さい○】
流鏑馬(やぶさめ)○晦日堺
住吉 神 送(をくり)
○十月○一日
《割書:今日より|十二日迄》ちしやく【智積】院に
論義○三日ひゑ
い山元三大師の御(み)
影(ゑい)年中二ヶ月は
飯室(いひむろ)に有十ヶ月
は横川(よかは)に有両所に
あんちする所今日に
くしを取さだむ○五
日 達磨(だるま)忌○今日
より十五日迄浄土宗
寺々に十夜の念
仏を行(をこな)ふ○十日
興福寺(こうぶくじ)維摩(ゆいま)会
《割書:今日より|十六日迄》○十三日 日(にち)
連(れん)上人御 影講(ゑいかう)俗
にをめこといへり○
廿日諸 商人(あきひと)ゑひ
す講京極四条 官(くわ)
者殿(じやとの)【冠者殿】の社せいもん
ばらひ
○十一月○八日
【左丁中段】
いなり大明神御火
焼俗にふいこ祭と
云○日蓮宗 十羅(じうら)
刹(せつ)【「殺」は誤記】女御火たき○十
一日 行事(ぎやうじ) 官(くわん)の内
太神宮御火たき
○十三日空也上人
忌○十八日《割書:上|下》御霊
御火焼○廿二日
《割書:今日より|廿八日迄》本願寺開山
忌○廿四日ひゑい
山三井寺あたごに
天台 大師講(だいしかう)○廿五
日《割書:今日より|廿八日迄》奈良
春日の御祭り
○午日祇園御火
たき○初の卯日
八はた御神楽也
○廿八日清水寺
行叡(ぎやうゑい)忌○子の日
当月此日別して
大こくを祭るゑん
■也
○十二月○一日
【右丁下段】
【見出し】「まつかせ【源氏香の図】【見出し語の上部左右に飾り鉤かっこを付け全体を▢で囲む】
此巻は哥と詞にて名つけたる
也。源氏三十歳の秋のこと
あり。源氏あかしにてあひなれ給ひし入道の
むすめ。ひめ君をうみ給ふて。みとせになりた
りけるを。あまりとほくへたゝりたれは。京に
のほり給へとおほせつかはされけれは。あかしのうへと
御はゝ君もろともに大井川のあたりにしるへ
あれは。その所に家つくりしてすみ給ふ川
流すこく松風さひしけれは。あかしにて源氏
あふまでのかたみとてをき給ふこと【琴】をとり出
してひき給うに。まつ風のひゞきあひたれは
あま君の哥に◯〽身をかへてひとりかへれる古
さとにきゝしににたるまつ風ぞふく○此心はこの
はゝあま君はもと都の人なれは。いまあかし
より入道ををきてふるさとへ帰るは生(しやう)をかえ
たる心ちするに。なにこともむかしにかはりたる
やうに思へとも。むかしきゝし松風の声のみ
かはらすきこゆるとよめる也。その比源氏は。かつ
らといふ所に御(み)堂をたて給ひ。念仏のために
おはしけるついてに。大井へもわたらせ給ふ也
【左丁下段】
薄雲(うすくも)
いりひ
さす
みねに
たな
びく
うす
雲は
物(もの)
思(をも)ふ
袖(そで)に
いろや
まがへる