翻刻
【左丁上段】
【見出し】琴之記(ことのき)【▢で囲む】
琴は唐土(もろこし)にては神農(しんのう)と
いふ聖人(せいじん)つくり給ふ。日本に
ては。天(あま)のうすめの命(みこと)はじめ給ふ
○琴と三味線(しやみせん)とちやうしあわせ様
琴の三の糸三味線の一。琴の五。三
味線の三とをなじ○二あがりの調(てう)
子(し)は琴の五。三味線の一。琴の八。三味線
の二。琴の十三。三味線の三。とおなじ事也
△糸のおさへやう。大ゆびにさしたる爪(つめ)
を前(まへ)の爪といふ中ゆびにさしたるを
向爪(むかふづめ)といふ人さし指(ゆび)にさしたるをわき
爪といふ○糸(いと)の名(な)手まへを巾(きん)といふ
次を為(い)といふ其次を斗(と)といふそれより
次第に十九八七六五四三二一なり。おさゆ
る糸は。四七九八也。引ならひにはおさへ
ずしてもくるしからず。地のきはに
すみ付置(をく)べし
【見出し】三味線(しやみせん)【▢で囲む】
三味線の引はじめは。文禄(ふんろく)の
比。石村(いしむら)けんげうといふ法師。
びわをやつし。しやみせんを作れり○
習(なら)ひやう。よく引人の。ばちの持(もち)よう。
指づかひ。色のつけやう見るべし
【右丁下段】
【見出し】「玉かつら【源氏香の図】【見出し語の上部左右に飾り鉤かっこを付け全体を▢で囲む】
此巻は哥をもつて名つけたり
源氏卅五歳の三月より十二月
まてのことあり。玉かつらとははゝ木々の巻に出し
なてしこのこと夕かほのうへの子也。四才の時めのとに
つれられてつくしへくたり給ふ。やう〳〵とおとなしく
なり給ひて京へのほり給ふ。御とし二十三也。たつ(夕かほ)ぬる
人にあはせ給へときねんのためにはつせへまうで給へは。
御はゝ夕かほのつかひ給ひて。のち源氏へつきしたかひし。
右近(うこん)といふ人に行あひ給ひぬ。右近もつね〴〵たつね申
けることなれは。源氏へ申てむかへたてまつりぬ。のち
にはひげぐろの大将の北のかたになりて。内侍(ないし)のかみ
にてありけれは。玉かつらの内侍と申せし也。源氏を
おやとたのみおはせしゆへにあひ給ふてよめる
〽恋わたる身はそれなれと玉かつらいかなるすぢを
たつねきぬ【「つ」とあるところ】らん○此心は身はそれなれとゝは源氏
我身のこと也。夕かほのうへをわすれすしてこひ
わたる身はをなしわか身なり。いかなるえにし有
てや。玉かつらのけんしを父(ちゝ)とたのみてたつねき給ふ
らん。ふかきえんにてあるよと云也。玉かつらとはかみ
のことなれは。すぢといふもことばのえんなり
【左丁下段】
初音(はつね)
とし月(つき)
を
まつに
ひか
れて
ふる
人(ひと)に【「わ」と見えるは誤記】
けふ
鶯(うくひす)の
はつね
きかせよ