翻刻
【右丁上段】
ばちは手の内かろく持べし力(ちから)を入れ
ばはやき事にばちまはらず。ぎし
つき。糸の音色出ざる也。糸をおさゆる
指つよくかゞめ爪にて糸をおさゆべし
【見出し】笛之記(ふえのき)【▢で囲む】
笛は武帝(ぶてい)の時きうちうと
いふ者つくりはじめる日
本にては天(あま)の大来目命(おゝくめみこと)香久山(かくやま)の
竹にて作るよこ笛 尺八(しやくはち)一節切(ひとよぎり)こま笛
といふもあり
【見出し】双六(すごろく)【▢で囲む】
双六 盤(ばん)は長 ̄サ一尺二寸是は十
二 月(つき)をへうす【表す】也。横七寸二歩
七十二日の土用(どよう)をへうす。白石(しろいし)十五は
上十五日 黒(くろ)石十五は下十五日也。しゆみ
せんざいは日月をへうす也是きび
大臣ひろめ給ひし事也
【見出し】琵琶(びわ)【▢で囲む】
琵琶 長(たけ)三尺五寸 糸(いと)四すじ
下よりさかさまに引を琵(び)と云
上よりしゆんにひくを琶(わ)と云 天竺(てんぢく)のあ
しゆりん王の代にきぶといふ者作り
たる也。すがたは大日如来はんち【ばんじ=梵字】をかた
とる也天竺しんだん【震旦=中国の異称】我朝をうつすなり
日本に渡る事ゑんぎの帝の御時也
【右丁下段】
【見出し】「はつね【源氏香の図】【見出し語の上部左右に飾り鉤かっこを付け全体を▢で囲む】
此巻は哥と詞とをもつて名つけ
たる也。源氏三十六歳の正月の
こと也。此はつねといふはあかしのうへの姫君を。むら
さきのうへの御子になし給ひてをはしますに
より。み給ふこともなくこひしく思しめさるゝ也。正月
一日かの御かたへ。あかしのうへより文まいらせ給ふ時の
御哥に〽とし月をまつにひかれてふる人にけふうく
ひすのはつねきかせよ○此心は。ひめ君むらさきの
うへの御かたへ御こしありて四五年になれは。御
たいめんありたきこゝろ也。たとへ。たいめんはなく共
せめて御返事のはつ音をきゝたきと也。ふる人とは
としへたる心也。松にひかれては。松を待(まつ)といふ心にして。
たいめんの折もやと待にかゝはりてとしへたる人に。
折にあひたるはつ音ををしみ給ふなと也。姫君返し
〽引わかれとしはふれとも鶯(うぐひす)のすたちしまつの
ねをわすれめや○此心はわれかくのことく紫のうへ
のかたへ引わかれてゐさふらへとも。わかもとそだち
しふるすのはゝ君の御かたをばわするへきことには
あらすとの心也。松のねは根(ね)さしのこと也。うくひすの
ねにもかよへるなるへし
【左丁上段】
【見出し】七夕詩歌尽(たなばたしいかづくし) 《割書:古詩|新哥》【見出し語の上下左右に飾り鉤かっこを付け全体を▢で囲む】
【上段頭部横書きの見出し(右から)】
七夕之詩(たなばたのし)・ 尽(づくし)
憶得(おもひゑたり)少年(せうねんにして)長(ながく)乞巧(きつこうすることを) 白楽天(はくらくてん)
竹竿(ちくかん)頭上(とうじやうに)願糸(ぐはんし)多(おほし) 詩(し)
二 星(せい)適逢(たま〳〵あふて)未(いまだ)_レ【左ルビ:ず】叙(のべ)
_二別(べつ)-緒(しよの)依々之(いいたる)-恨(うらみを)【訓点「一」の欠落】 小野(をのゝ)ゝ
五夜(ごや)将(まさに)_レ【左ルビ:して】明(あけんと)頻(しきりに)驚(おどろく) 美材(よしき)
_二涼風颯々之(りやうふうのさつ〳〵たる)-声(こゑ)_一 詩(し)
露(つゆは)応(べし)_二別涙(わかれのなんだなる。)_一珠空落(たまむなしくおつ) 菅相丞(かんしやうぜう)
雲(くもは)是残粧(これざんさう)髻(もとゞり)未(いまだ)_レ【左ルビ:ずと】成(なら) 詩(し)
風(かぜは)従(より)_二昨夜(さくや)_一声(こゑ)弥怨(いよ〳〵うらむ) 江相公(ゑのしやうこう)
露(つゆは)及(およんで)_二明朝(みやうてうに)_一涙(なみだ)不(す)_レ禁(たへ) 詩(し)
去衣(きよい)曳(ひいて)_レ浪(なみを)霞(かすみ)応(べし)_レ湿(うるほふ) 菅三品(かんさんほん)
行燭(かうしよく)浸(ひたして)_レ流(ながれに)月(つき)欲(す)_レ消(きへなんと) 詩(し)
詞(ことばは。)詑(だくして)_二微波(びはに)_一雖(いへども)_二且遣(かつやると)_一 菅輔昭(かんすけあき)
意(こゝろは)期(ぎと)_二片月(へんげつを)_一欲(ほつす)_レ為(せんと)_レ媒(なかだち) 詩(し)
【左丁下段】
胡蝶(こてふ)
花(はな)ぞの
の
こてふ
を
さえ【「へ」とあるところ】や
した
くさに
あき
まつ
むしは
うとく
みるらむ