翻刻
【右丁上段】
○雲霧(くもきり)もへだてやはせん相(あひ)思ふ 季信
ほしの逢(あふ)よの中の契(ちぎ)りに
○夕部(ゆふべ)〳〵秋の露さへをきそはる 雅庸
袂(たもと)もこよひほしあひのそら
○七夕のあふ夜たえせぬ初秋に 時量
ともす火 影(かげ)や空(そら)にしたしむ
○暮(くる)るをや猶いそぐらん天の川 雅房
待わたりぬるけふの舟出(ふなで)に
○天の川月のかつらのさほさして 雅景
星や舟出をさぞいそくらん
○うく事もしらずや星の手向(たむけ)草 よみ人
この七種は花もましらず しらず
○花すゝきまねく袂はをり姫の 道晃
つままつ宵のこゝろをやしる
○今宵あふ星の手向と秋はぎの 雅景
花のにしきのひもやとくらん
○七夕の手にもおとらずけふ待て 弘資
をりはへけらし萩のにしきも
○天の河わたせさやけき夕月の 仙洞
ひかりや星の妻むかえふね
【左丁上段】
契り 枕
もら よ
すな り
七夕
の ほか
しる
一 人も
夜 なし
とて
○織女のまれの舟出もみなれ竿(さほ) 道晃
さすがなれぬる道はたとらし
○寐(ね)ぬる夜の明るやつらき七夕の 公理
あふせは絶(たへ)ぬちぎりながらも
○天の河色づき初てほのめけば 光離
月や紅葉の御ふねなるらし
○恋わたる思ひもはれずふる雨に 経慶
ちぎりかひなきかさゝぎのはし
○萩薄(はぎすゝき)ふたつの星に手向をきて 通村
いづれか秋と空にとはゞや
【右丁下段】
【見出し】「ほたる【源氏香の図 注】【見出し語の上部左右に飾り鉤かっこを付け全体を▢で囲む】
此巻は詞と哥とをもつて名つけ
たる也。源氏三十六歳の五月のこと
あり源氏玉かつらをむかへとり給ひもてなし給ふに
兵部卿(けんしの御おい也)の宮玉かつらをかきりなく御心をかけ給ひて五
月四日の夜忍ひてをはしけるにけんしは玉かつらの
御かたちのすくれてうつくしきを宮(匂)に見せ申て
心をつくさせ申さんとてその夕つかたほたるをおほ
く取あつめてきちやうのかたひらにつゝみて光に
つけてほのかに御かたちを見せ給ひけれは兵部卿
の御哥に〽なくこゑもきこえぬ虫の思ひだに人のけ
つ【消つ】にはきゆる物かは○此心はなくこゑも聞えぬ虫の思ひ
とはほたる也そのおもひたにけすにけされぬ物也
いはんや人の思ひは音をたつる物なれはいよ〳〵うち
けされましきとの心也おもひはほたるの火によせて
いへり 玉かつらかへし〽声はせて身をのみこかす
ほたるこそいふよりまさる思ひなるらめ○此心はことはに
いゝ出していへはなくさむこともあるへしたゝ音に
たてぬほたるの思ひよりふかく見え侍れみやはかく哥を
よみて思もなくさみ給ふへけれわか身は蛍のことく
音をなかねは猶まさり侍るといふ心なり
【注 図が違っている。正しくは、二、四、五番目の線が頭部で繋がる。】
【左丁下部】
常夏(とこなつ)
なでし
この
とこ
なつ
かしき
色(いろ)を
見ば
もとの
かき
ねを
人(ひと)や尋(たづね)む