翻刻
【右丁上段】
もぎ【河原艾 注①】の葉(は)にて灸(きう)を一ツすゑ。てよし
▲狐臭(わきが)の妙薬◯ろくせう【鹿茸 注②】○ぶし【附子 注③】◯けいふん【軽粉 注④】
白(びやく)じゆつ【白朮 註⑤】《割書:くろ|やき》各々等分酒にてよくねりて
脇の下の毛をぬき。よくあらひ。絹(きぬ)につゝみ
ひたもの【ひたすら】ぬるべし。いつとなく香(か)うせる物也
◯又田にしを取。口へ巴豆(はづ)【注⑥】の粉をすこしづゝ
ひねり入ればあはをはく物也。右のことく脇(わき)
の下の毛をぬき能(よく)あらひ田にしのあはを付
ればたゞれ痛(いた)むなりいたむ間はいくか【幾日】にても
其まゝ置(をき)かゆく成ときゆにて洗(あらひ)おとし
丹礬【「胆礬」の誤用。硫酸銅】《割書:大》はらや《割書:中》【水銀粉 注⑦】鹿(しか)のふくろ角(づの)《割書:小》【注②参照】三味
粉にして付べし一代わきがの根をきる也
▲ねあせには◯五倍子(ごばいし)【注⑧】を粉(こ)にして水にて練(ねり)
へその中によくつめてふたをし。そのうへに
腹帯(はらおび)をして臥(ふす)へし。二三夜もかくのごとく
すればいつとなくねあせかきやむもの也
▲鼻血(はなぢ)にはりうこつ【龍骨 注⑨】の粉をはなにふき入
てよし◯又天南星(てんなんしやう)【前コマ注⑥参照】をくだき食飯(そくい)にて能(よく)
ねりまぜ。あしのうらに付れば忽(たちまち)とまる也
▲ほねたがひ【骨違い=脱臼】には◯石灰(いしばい)◯楊梅皮(やうはいひ)【「やまもも」の漢名】粉(こ)にして
【注① キク科の多年草。本州、四国、九州の河原や海岸の砂地などに生える。漢方医学では、利尿薬、駆虫剤、かぜ薬などにする】
【注② ろくじょう=鹿の袋角(ふくろづの)。春に鹿の角が落ち、夏に出る新しい角でまだ皮をかぶっているもの。】
【注③ トリカブトの根を乾燥させたもの。強心、利尿、鎮痛などの目的で使われる。毒性が強い。】
【注④ 水銀、食塩、にがり、赤土をこね合わせ、加熱して得られた昇華物。本質は塩化第一水銀。駆梅、利尿、抗菌作用がある。はらや。】
【注⑤ オケラ(朮)の若根の外皮を除き、乾燥して製した芳香性健胃薬。白散(びやくさん=屠蘇酒などととともに元日に服用した散薬)などに用いる】
【注⑥ 常緑小高木。巴豆油の原料にされ、また下剤に用いられるが、猛毒がある】
【注⑦ 軽粉のこと。またこれを原料とした化粧品。古くから上流階級に愛用されたので「御所おしろい」と呼ばれた。】
【注⑧ ヌルデの葉茎にできる虫こぶ。ヌルデミミフシが寄生して生じるもので、薬用として用いられるほか、染色やインク製造に用いられる。】
【注⑨ 古生物の化石。古くは薬として用いた】
【左丁上段】
等分(とうふん)を紺(こん)屋のり【注⑩】にて練(ねり)まぜ付る◯又小麦(こむき)
の粉に鶏(とり)の玉子を押(をし)まぜてつくるもよし
▲心痛(むねいたむ)には◯延胡索(えんごさく)【注⑪】を粉にして酒にて呑(のめ)
ば。いか程(ほど)の心痛(しんつう)にてもいたみを治(ぢ)す奇妙(きめう)也
▲漆負(うるしまけ)には爪白(つまじろ)のかにと餅米をすり鉢(ばち)
にてよく摺(すり)まぜて付べし是めいよう【注⑫】の薬也
▲気種(きしゆ)【できもの、はれものの類】のくすり◯ほとゝぎすの黒
やきごまのあぶらにてとき付てよし
▲行纏瘡(はゞきがさ)【前コマ注①参照。記事が重複】のくすり◯五倍子(ごばいし)をよくいり
粉にして苗(なへ)の霜(すみ)を加(くわ)へごまの油で練(ねり)付べし
【注⑩ 紺屋糊=紺屋で型染めの型を置くのに用いる糊。粳(うるち)、糯米(もちごめ)などに、米糠を加えて製したもの。】
【注⑪ ケシ科キケマン属の草のうち、花が紫色ないし白色で地下に塊茎をもつものの総称。地下茎を干したものは鎮痛剤とされる】
【注⑫ 「名誉」の変化した語。世にまれなこと。不思議なこと】
【右丁下段】
【見出し】「まきはしら【源氏香の図】【見出し語の上部左右に飾り鉤かっこを付け全体を▢で囲む】
此巻は哥をもつて名つけたる也。
源氏三十七歳の十月より卅
八のあきまての事あり。巻はしらといふことは。
玉かつらの内侍ひげくろの北のかたになり給ふ也。
ひけくろのもとの北のかたは。ものゝけつきておは
せしか。ひけくろの玉かつらのもとよりかへり給
はぬにより。北のかたはさとへもどり給はんとし
給ふ。その御むすめ十二三になり給ふか。哥を書て
はしらのすこしわれたるゆへかうがひのさき
にてをし入給ふ 〽いまはとて宿かれぬともなれ
きつるまきのはしらよわれをわするな◯此うた
よりまきはしらの君といへる也。やとかれぬともとは。
いま宿をはなれゆくとも。わかよりゐたる柱よ
我をわすれなとの心也◯北のかたの哥に〽なれ
きとは思ひいつともなにゝよりたちとまるへき
まきのはしらそ◯此心ははしらは無心(むしん)のもの也。
その心なきものも。なれきつることをあはれと
思ひいつることありとも。此やとりにとまるへきわか
こゝろにてはなきそとの心也。たちとまるへきとは
はしらのゑんによめるなり
【左丁下段】
梅枝(むめかえ)
花(はな)のかは
ちり
にし
枝(えだ)に
とま
らね
ど
うつらむ
袖(そで)に
あさく
しまめや