翻刻
【右丁上段】
◯又 蛇床子(じやしやうし)明礬(みやうばん)二味。等分にしてせんじ前
をあらひ五倍子(ごはいし)明礬(みやうばん)を粉にして捻(ひねり)かけべし
又 韮(にら)をせんじて日に三度つゝ十日程あらふべし
▲下疳(げかん)【注①】薬◯あは粒(つぶ)のごとくうみたるには
はこべのかげ干(ぼし)粉(こ)にしいわう少入かみのあぶら
にてとき付てよし◯又すいかづらに甘草(かんざう)【注②】
少し入 煎(せん)じあらひ跡へめぐすりを付て妙也
▲月水【「げっすい」または「つきのみず」という。月経のこと】の時日(じじつ)のべ度には◯蒲黄(ぼわう)【注③】続断(ぞくたん)【注④】
二色共に煮(いり)。したん。くわつろ【注⑤】こん。もぐさの
くき粉にして毎日のめば月をこゆる也
▲子のとまらぬ薬◯水銀(子)をごまのあぶらにて
一日せんじなつめの大さ程にしてすき腹(はら)
に呑(のめ)ば子を生ぬ也人をそんずる事なし
▲前ひえて気味(きみ)あしきには蛇床子(じやしやうし)《割書:四両》
呉茱萸(ごしゆゆ)【注⑥】《割書:六分》麝香(じやかう)《割書:二朱》粉にして。ちいさ
き梅ほどに丸(くわん)じ絹につゝみ前にいれ
おけば悪物くだりていゆる也◯又 呉茱(ごしゆ)
萸《割書:半両》を粉(こ)にし蜜(みつ)にてねり丸め絹の
ふくろに入て前に入おくもよし。又いわう明(みやう)
礬(ばん)二色を粉にしせんじ切々(さい〳〵)【「再々」の誤記ヵ】あらふてよし
【注① 性交によつて伝染する潰瘍の一種。ふつう陰部にできたものをさす。】
【注② マメ科の多年草。漢方医学で咳、腹痛、胃潰瘍などの治療に用いる。】
【注③ 蒲(がま)の穂の表面に生ずる黄色な花粉。止血、解熱、利尿薬に用いる。】
【注④ 「ぞくだん」=植物「おどりこそう(踊子草)の誤用漢名。】
【注⑤ 括楼。「かつろう」とも。植物「きからすうり(黄烏瓜)の漢名。】
【注⑥ ミカン科落葉小高木。果実は紫紅色に熟し、健胃、駆風、利尿薬にする。】
【右丁下段】
【見出し】「ふちのうらは【源氏香の図】【見出し語の上部左右に飾り鉤かっこを付け全体を▢で囲む】
此巻はことはをもつて名とせり。
源氏三十九歳の三月より十二月
までのこと見えたり。雲(くも)ゐのかりの姫君を夕霧(けんしの御子)
の思ひそめて年久しくなりけれども。姫君の
ちゝ(あせち)君(大なこん)ゆるし給はさりしが。さてしもあるべきなら
ねばゆるし給はんとの御心にて。御 庭(には)の藤(ふぢ)の
花さかりに中将をよび給ひて。さかづきのついて
ちゝおとゞ藤(ふぢ)のうらばのと口ずさひ給ひしは哥
の心也〽春日さす藤のうらはのうらとけて君し
思はゞわれもたのまん。これにて巻の名とせる也
此心はそのかたうらおもてなく打とけ給はゝわれも
たのまんとの心なり。ちゝ大臣の哥に〽むらさきに
かごとはかけん藤の花。まつよりすぎてうれた【うれたし=いまいましい】けれ
ども◯此心はむらさきを雲(くも)ゐのかりにたとへ。かことを
雲(くも)ゐのかりにゆつらん。そなたよりすゝみての給はん
をまちつるに。さもなかりしかは。うれへは心に
ありながら。いまは雲ゐのかりをまけてそなたへ
まいらするからは。それにゆづりてうらみをものこ
さじとの心也。まつとは松を縁によせて。縁
すきたる心によめるなり
【左丁上段】
【見出し】「献立書様(こんだてかきやう)の事【見出し語の上部左右に飾り鉤かっこを付け全体を▢で囲む】
【上方】
何月何日(なんくはついくか)昼(ひる)献立(こんたて)
本膳
鱠(なます)【文字の下に縦の波線四本】羹(あつもの)【同上】
煮物(にもの)【同三本】飯(めし)
二
笋羹(しゆんかん)【同五本】二汁【同二本】
引て
香物(かうのもの)【同二本】
炙(やき)物【同右】
𩐓(あへ)物【同右】
初献
引炙物
二
吸物【同右】
肴【同右】
【左丁上段下方】
一何月何日の昼夜斎(ひるよるとき)
非時(ひじ)それ〳〵にしたが
ひて書べし
一 食(めし)の字(じ)かくはわろし
飯(めし)と書てよし
一本膳の汁と書はわ
ろし羹(あつもの)と書べし
あつ物はしるの事也
一 鱠(なます)と書ときは魚類(ぎよるい)
のなますなり。精進(しやうじん)
なれば膾(なます)と書分て吉
一本膳に鱠ばかりつく
ときは飯(めし)と羹(あつもの)の中
通の上に書付べし
一 香物(かうのもの)付て出す時は
飯と鱠の間右へよせ
て書付べし
一 焼(やき)物と書はわろし
【左丁下段】
若菜(わかな)《割書:上》
こまつ
ばら
すゑ
の
よはひ
に
ひかれ
てや
野べの
わかなも
としを
つむへき