東京学芸大学「学びと遊びの歴史」を翻刻!

コレクション: コレクション 1

女源氏教訓鑑 - 翻刻

女源氏教訓鑑 - ページ 63

ページ: 63

翻刻

【右頁上部】 ▲一 条院(でうのいん)の御宇(ぎよう)長 徳(とく)三年やよひの頃。和泉(いつみ) しきぶ播州(ばんしう)書写山(しよしやさん)に詣(まふ)で帰るさに此 湯(ゆの) 山に來り。湯治(たうぢ)せられんとて先 薬師(やくし)の宝前(ほうぜん) にまふで給へば俄(にはか)に月のさはり有ければ大きに かなしみ○もとよりも塵(ちり)にまじはる我なれ ば。月のさはりと成ぞ悲(かな)しきとゑい【詠】じ給へば 御帳(みちやう)のうちより御(み)こゑを出して○もとよりも ちりの浮身(うきみ)のしやばなれば月のさはりも何(なに) か苦しきと。御尊詠(ごそんえい)有て免(ゆる)させ給ふと也 ▲人皇七十三代ほり川院(かはのいん)の御宇。淫雨洪水(いんうこうずい)し て山谷(さんこく)をくつかへし。民屋坊舎(みんをくばうしや)湯(ゆ)つぼ迄 悉(こと〴〵)く 沉没(ちんほつ)して一同に破滅(はめつ)せり其程九十五年が間 取立るわざもなく絕(たへ)はてければ草木ふかく しげりむなしく禽獣(きんじう)の住(すみ)かと成。人すむ事なし ▲其頃 和刕(わしう)三吉野(みよしの)高原(たかはら)寺の住僧(ちうそう)仁西(にんせい)上人 とて大 峯(みね)高験(かうけん)の行者あり。熊野(くまのゝ)権現(ごんげん)の 御 吿(つけ)によつて彼(かの)温泉(うんせん)の山に尋(たづね)行給ひ里人 をかたらひ湯舟(ゆぶね)を造(つく)らせ二たびはんじやうの有 馬山。今の世〻(よゝ)迄 温泉(うんせん)の利益(りやく)有がたし。これ ありまの中興(ちうこう)上人にて行基𦬇【上下艹艹、菩薩ノ畧字】のさいらい也 【右頁下部】 こうばい 此巻は詞をもつて名つけたる也。 のき近(ちか)き紅梅(こうばい)のいとおもしろく 匂(にほひ)たるとあり。此巻はあぜちの大納言とて。かしは ぎのゑもんのかみのおとゝにて。世にさかへ給ふあり。 この北のかたはひげくろの大将のむすめ。まきの はしらよ我をわするなとよみし人。ほたる(紫上の父也)兵部(ひやうぶ) 卿(きやう)のみやにまいり給ひしが。みやかくれ給ひしのち 大 納言(なごん)のかたへまいり給ふ。みや(兵部卿)にひめ君ひとかた おはしけり。此御かたの庭(には)にうつくしき紅梅(こうばい)あり。 まゝ父 大納言(あせち)。この梅(むめ)の枝(えだ)を折て/にほふ(けんじの御おい也)【源氏の御甥也】兵部卿(ひやうぶきやう) のもとへ。くれないのうすやうに文かきてたてま つり給ふ歌に 〽心ありて風のにほはすその の梅(むめ)にまつうくひすのとはずやあるべき。此 心は風の心ありて匂(にほ)はするむめには鶯(うぐひす)のとはぬと いふことはあらじと也。下心は姫君のことをほのめ かす也。まつ鶯(うぐひす)とは先(まづ)と待(まつ)との心あり。此ひめ 君を。みやにたてまつりたきと思ふ心ありてこそ。 紅梅(こうばい)をまいらする也。此心あるに。いかでかまつ うくひすのとはすをき給ふまし【如何でか、待つ鶯の訪はず擱き給ふまじ?】とは。兵部卿の 宮をうぐひすにたとへていへるなり 【左頁上部】 ▲湯船(ゆぶね)の寸方之事○横(よこ)の廣(ひろ)さ。壱丈二尺 五寸。奥行(をくゆき)壱丈五寸。深(ふか)さ三尺八九寸なり。 ○一の湯南むき○二の湯北むき。坪数(つほかず) 何れも同事也○湯のあつさぬるさのかげん 四季ともに同事也○湯(ゆ)相應(さうをう)養生記(やうじやうき)の事 一 中風(ちうぶう) 一 脚氣(かつけ)  一 筋(すぢ)いたみ  一第一ひえ 一 頭痛(づつう) 一 打身(うちみ) 一 骨(ほね)くだけ 一 金瘡(きんそう) 一 痔漏(ぢろ) 一 下血(げけつ) 一 腎虚(じんきょ) 一 労瘵(らうさい) 一 虚労(きよらう) 一 痃暈(けんうん) 一 疝気(せんき) 一 冷疾 一 田虫(たむし) 一こせ 瘡(がさ) 一 痳病(りんひやう) 一 腰氣(こしけ) 一 白血(しらち)長血(ながち) 一子のなき女人此湯に入ば懐胎(くわいたい)す ○此外 諸事(しよじ)の煩(わづら)ひは金輪(こんりん)涌出(ゆじゆつ)の霊湯(れいたう)也 仏神 加祐(かゆう)の寶泉(ほうせん)なるにより男女共此ゆに 入ぬれば腎(じん)を補(をぎな)ひせい気をまし脾胃(ひゐ)を剛(つよく) し食(しよく)事をすゝめやせたる人はしゝつき肥(こへ)たる人は 肌膚(きふ)をかたくなす。此外 異症怪病(いせうけひやう)のたぐひも よく其 宿(やど)に相 尋(たづ)ねて湯治(たうぢ)有べし 一 生瘡(なまかさ) 一 癩病(らいひやう) 一 癲癇(てんかん) 此 三病(さんびやう)には 相應(さうをう)せずかへつてあしゝ。必(かならず)是をつゝしむべし 其法くはしく縁起(えんぎ)并に湯文(ゆぶみ)にあり 【左頁下部】 竹川(たけかは) たけ  かはの はし  うち いでし  ひと ふしに ふかき   心(こゝろ)の そこは しりきや