翻刻
【右丁上段】
【見出し】暦の中段をしる事【見出し語の上部左右の角に飾り鉤かっこを付け全体を▢で囲む】
建(たつ) 《割書:とはざうさくわたまし宮寺こんりう
|諸事をこしらへ始る心に用ひてよし》
除(のそく) 《割書:万事をよくる心にてようしやする日なり|もの事ひかゑうちばにするなり》
満(みつ) 《割書:物のぢうまんする日也万きはめさだめる也|満足の心也諸ぐはんほどき談合極るに用る》
平(たいら) 《割書:よしあしともにたいらかにしづかなる日也|此心を用てつよからずよはからず中分に用》
定(さたん) 《割書:物を定る事此日を用ひ定てよし。けつでう|する日也師弟のけいやく又はふさいのいひ合よし》
取(とる) 《割書:人の方よりうけとるによしほどこす|事には何にてもむようの日なり》
破(やふる) 《割書:諸事の用(よう)などにつく事にあしき日也|下地共に打やぶる心也しよたい持つにもあしゝ》
危(あやふ) 《割書:万端(ばんたん)用心(ようじん)して物をとりおこなふなり|かやうにしてはいかゞあらんとねんを入べし》
成(なる) 《割書:此日何事もじやうじゆする日なり。右に|あるみつといふ日に同しこゝろなり》
納(おさん) 《割書:あき五こくを納る日也或はくらを立宝を入|始。又は宮寺何にてもきしんする心にて用べし》
開(ひらく) 《割書:くらびらき入学やどかへ国がへかうしやくものを|初ておこなふ日炉こたつなどひらく何れも吉》
閉(とつ) 《割書:右のとるといふ日ににたるぎり也いんぶんの事に用|たとへば家立て後かべなど拵る日也炉こたつ此日とつる也》
右此こゝろを以て万端につかふ事也男はのぞくの
日あしく女はやぶるの日ゑんりよしてよし
【右丁下段】
【見出し】かぎろふ【源氏香の図】【見出し語の上部左右の角に飾り鉤かっこを付け全体を▢で囲む】
此巻は詞と歌とをもつて名と
せり。かほる廿六歳の事也。うき
舟はかれこれの物思ひより心もそゞろにてついに
あとなくうせ給ふ。宇治にはうき舟ゆくゑなく
うせ給へば。こゝかしこもとめたづぬれども見え
ざれば《割書:匂》宮ひたすらに此なげきにふししづみ
給ひて。侍従(じしう)といゝしうき舟のつかひ給ひし女房
をよび給ひて。御かたみと思ひつかひ給ひしなり。
宮(匂)はむかしのことを思ひ出し給ひたる夕ぐれに。
かげろふのとびちがふを見給ひて。よみ給ふ歌に
〽ありと見て。手にはとられずみれば又。ゆくゑも
しらずきえしかげろふ◯此心はうき舟などの
はかなくうせ給ふことを思しつゞけてかげろふ
といふてあしまに生じて夕にしする虫(むし)のことを
みるにつけて。ひつきやうにんげんせかいの無常(むしやう)
の有さまを観(くはん)じ給へば。無はこのかげろふの
やうなるものぞといふ心なり。かげろふ蜻蛉(せいれい)
と書り。又は陽炎(やうゑん)蜉蝣(ふゆう)ともいへり。こゝの心を
みれば。蜉蝣(ふゆう)のことなるべし。此虫はあしたに生(しやう)
じて夕(ゆふべ)にしすといへば。はかなきたとへなり
【左丁上段】
【見出し】こよみの下段之事【見出し語の上部左右の角に飾り鉤かっこを付け全体を▢で囲む】
▲天赦日(てんしやにち) さいじやうの大吉日也何事に
用ひても万吉日也年中に六七日めぐる也
▲大明(だいみやう)日 よろづに用てよし大吉にち
ことに祝言わたまし出行物たち【裁断、裁縫】万によし
▲天一天上 此日天一神八方を四十四日めぐり
おはり天へ上り給ふ日を天一天上といふ也此日
より十六日の間は八方へ行に天一神のさはりなし
▲御くし と有はふるき御はらひごわら?など
やしろへをさめてよき日なり
▲はがため と有はくひぞめする日なり
▲きそはじめ きる物きそむる日なり
▲大 禍(くわ)狼耤(らうしやく)滅門(めつもん) 是三ヶの大あく日にて一切の
仏事くやう諸事ふかくいむ日なり
▲滅日(めつにち)没日(もつにち) 是も二ヶの大あく日也但しめつ
日とは月のめぐみふそくなる日なり
▲復(ふく)日 重(ちう)日 たねまき祝言くすりをのみはじめ
きう針にいむ但しものたち又はあたらしきい
しやうをきそむるによし
▲五墓(ごむ)日 此日よろづにわろしあく日
なり但し家づくりにはよし
【左丁下段】
手習(てならひ)
身を
なげし
なみだ
の
川(かは)の
はや
き
せを
しがら
み
かけて
たれか
とゞめし