翻刻
【右丁上段】
【見出し】小笠原折形之図(をかさはらをりかたのづ)【見出し語の上下左右の角に飾り鉤かっこを付け全体を▢で囲む】
熨斗(のし)の包様(つゝみやう) 色紙(しきし)
板(いた)の物(もの)包(つゝみ)やう 墨筆(すみふて)
真(しん)の熨斗(のし) 木(き)の花
扇(あふき)草(さう)のつゝみやう
扇 行(ぎやう)の包やう 胡枡(こせう)の粉(こ)
草(くさ)の花 にほひ袋(ふくろ)
【右丁下段】
【見出し】ゆめのうき橋【源氏香の図】【見出し語の上部左右の角に飾り鉤かっこを付け全体を▢で囲む】
此巻は哥にも詞にも名の義(き)
なし。心をもつて名づけたり。
うき舟の小野に居給ふことをかほるのきゝ出し
給ひて◯此 手習(うき舟こと也)の君の弟ひたちの(うき舟のまゝちゝ)守(かみ)が子を御
使にて。御文つかはさる。しるへなくばいかにとてかの
人(うき舟也)をあまにせし僧都(そうづ)に文をこひて大(かほる)将の御文
にとりそへてゆきし也。かほるの御哥に〽法のしと
たづぬるみちをしるべにて思はぬ山にふみまよ【「ど」とあるところ】ふ
かな◯此心はのりのしとより僧都(そうづ)をたのむべき。
かく思ひよらぬことをたのみたるといふ心也
〽そも〳〵此巻 夢(ゆめ)のうき橋(はし)といふこと。まつたく色(いろに)
ふけり言葉(ことば)をかざりて此物がたりをかけるにあら
ざる也。只(たゞ)無常(むじやう)のことはりをあらはし盛者(せうじや)必(ひつ)
衰(すい)のおもむきをしらしめんため也。夢(ゆめ)といふは
むなしき心也。有無(うむ)の諸法(しよほう)いづれもゆめにあら
ずといふことなし。うき橋(はし)とは伊弉諾(いざなぎ)伊弉冉(いざなみ)尊(みこと)。
天(あま)の浮橋(うきはし)にて共為夫婦(みとのまぐはひ)【濁点の位置誤記】し給ひて。陰陽(めを)をさだめ
給ひしも男女(なんによ)のことよりおこれり。しかれ共こゝは
夢の一 字(し)の外はなし。浮橋(うきはし)は夢(ゆめ)にひかれて出
きたる詞(ことば)也。栄花(ゑいくは)もみな夢(ゆめ)とさとるへしとの義也
【左丁上段】
【見出し】源氏略系図(げんじりやくけいづ)【見出し語の上下左右の角に飾り鉤かっこを付け全体を▢で囲む】
▲桐つぼの更衣(かうい) げんしの御母 《割書:あぜち大なごんの|御むすめ》
▲あふひの上(うへ) げんじの北の方 《割書:左大臣(さたいじん)の御 娘(むすめ)》
▲むらさきの上(うへ) げんじの北の方 《割書:藤つぼの女御の|御めい子》
▲女三のみや げんじの北の方 《割書:藤つほの女御の|御むすめ》
▲末(すえ)つむ花 げんじの通ふ所 《割書:ひたちのみやの|御むすめ》
▲おぼろ月夜 げんじのまれに逢人 《割書:こうきてんの|御いもうと》
▲花ちるさと げんじの通ふ所 《割書:れいけんでんの|御いもうと》
▲夕がほの上(うへ) げんじの通ふ所 《割書:玉かづらの母(はゝ)》
▲玉かつら げんじの御 子分(こぶん) 《割書:実は頭中将(とうのちうじやう)の子》
▲雲ゐのかり げんじのこしうと 《割書:頭の中将(とうのちうじやう)の御 娘(むすめ)》
▲六条のみやす所 げんじの御おぢ 《割書:前坊(せんばう)の北(きた)の方(かた)》
▲秋このむ宮 六条のみやす所の御むすめ
▲うきふね ひたちの守が娘 《割書:実はうぢの宮の|御子》
▲宇治(うぢ)の宮(みや) げんじの御おぢ也
▲かしはぎのゑもん げんじのこしうと也
▲匂兵部卿(にほふひやうぶきやう) げんじの御おとゝ也
▲夕ぎり げんじの御子 《割書:あふひの上の|御はら也》
▲かほる げんじの御子 《割書:実はかしは木の子|女三の御はら》
▲ひげくろ げんじの御おいの 《割書:れいせいゐんの御母|かたのおぢ也》
【左丁下段】
【見出し】源氏物語之大意【見出し語の上下左右の角に飾り鉤かっこを付け全体を▢で囲む】
此物かたりのはじめは紫式部(むらさきしきぶ)上 東門院(とうもんいん)の
官女(くはんによ)になりたる比(ころ)斎院(さいゐん)より上東門院へ
めづらかなる物かたりあらば見給はんと御 尋(たづね)
ありしにより紫式部に仰(をゝせ)つけられと
つくらせらる式部仰をうけ給はりて石山
の観音(くはんをん)に詣(ま)ふで通夜(つや)して此 事(こと)を
祈(いの)り申されけるにおりふし八月十五夜
の月 湖水(こすい)にうつりて心もすみわたり
て物かたりの風情(ふせい)心にうかひけれは
仏前(ぶつせん)に有(あり)ける大 般若経(はんにやきやう)の料紙(りやうし)を申
うけてまつ須磨(すま)あかしの両 巻(まき)を書(かき)
とゞめ其後(そのゝち)次第(したい)に書(かき)くはへて五十四 帖(じよ)と
なして奉りけれは大 納言(なごん)行成卿(ゆきなりきやう)に清書(せいしよ)
させられて斎院(さいゐん)へまいらせられけると也
まことに和語(わご)の双紙(さうし)この物がたりに
すぎたる物なしといへり