翻刻
【右帖】
なき人はたとはゝ五枚調る種を三枚か四枚にして
残りの代にて調へし惣して我分限より蚕多く
養事悪し分限相応にして念を入十分にかい取
道具沢山にてうすくやとひ出す時はつもりの外に
繭よくて石取存分成もの也蚕をよく養んと思ふ
人は先冬春の内道具を第一に調へし扨又間には
すくれておろかなる人有て蚕をはなすへきなとゝ
思ひ種欲をかき大分はき立て蚕繁畠の年に
あたりてはそまつにして蚕名利をうしなひまた
養時は諸道具人足ふそくにて農業にもやらひ
【左帖】
桑なと高直【こうじき:高価な事】なれはさん〳〵に養ちらし損する
のみにあらす諸人の嘲(あさけり)をうくる是みな欲のなす
わさ也慎むへし扨又此書をよむ人一通り見て猶
置事なかれ古歌に【耳=に】いにしへの学ひの道は高さ
くり幾度ふるき跡をふむらんと言りこの此書にかき
らす諸の【農=の】書をよむといへ共爰かしこに得心の理有
を見付すしてよみ通るは幾度古き跡をふみ悟
の理を見付たるかのことし又愚(をろか)なる人の道をゆくに
あたなる事【㕝=事】を心におもひ左右の草木に目をくば
るかゆへに足本にすたれる金玉を見付たるに
似たりこひねかはくは幾度もよみかへしよみ