翻刻
【右帖】
ては手桑切きらさる程の分限と成ける誠に此人もとは親
孝行の【農=の】志にて蚕に心を尽しける其勲功積て天へ
通し恩報の福なるやとて諸人是を感しける其人
近き頃おはりて今は子息の代なり子息も大躰の人に
あらす慥成る念者也此人高崎にての町宿は田町の
西かわに有手前絹売に一度に五六十疋宛持参するは
此人はかり也尤金銀大分持たる人は多く有へけれ共蚕
にかやうに念者は上野【こうづけ、群馬の旧国名】には稀也ちかく人は此人をも見るに
付ても蚕に心をつくすへし遠くの人は是を聞に付ても
何とそ養蚕の理を得徳すへし
【左帖】
第五はきおろしの事
歌に
〽はきおろし桑のめあつく毛蚕(けこ)うすく其夜のしみをいとへきわとく
同
〽青みたる種をはしみにあはするないきれをかねて疾(とく)つかむへし
同
〽蚕にはつゐゑを徳のもとゝする桑おしむなよ隙おしむなよ
種色替て後青むら【青むと】見へはゆだんすへからす其時寒風甚
くはたとひ青みきらすとも一枚ツヽ二つ折りにしてあたら
しきしやうきか大こりのたくいに紙を敷種沢山ならは二
枚かさねにもならへ置紙にて覆ひ其上を衣類を以包み
置へし五枚以下の種ならは紙の上を衣類にて直に包ても
くるしからす種多く重て直に衣類につゝめは蚕出へき
前いきれるもの也自然いきれたる時ははき立てのゆ
じゆなし此故に器物に入てつゝむもの也但箱