翻刻
【右帖】
付へし此時桑あたへずして暑にあたりたる蚕はみな滅
る也休の前後共に桑はすきをあらせすせめ付へし此時の
桑は炎天(えんてん)の暑気甚敷時家内に居ても外に居ても
凌かたき事有其折節冷なる水を呑がことし戸しやうし
をはつして風を入るは扇うちわにてあをくと同前なり
蚕生長しての補此所が第一也必々油断有へからす又休前
北風大分吹て寒き事有其時は北をとちふさきたき火
をつよくして家内を暖にすへし又休付て後寒く有は
それとてもいよ〳〵暖にして一旦に起し起ると早速桑付へし
桑付には雨桑しなひ桑大きに悪しはやし立もき立を
以二三度程はせめあたへへし種を出す人は此桑付より桑を
ゑらぶべしこさとも里近所に林の有所吹かけ小麦
畠(はたけ)の廻り地くほの風あたらさる場所雨桑土の付た
【左帖】
る桑是等の桑を忌へし扨又舟の休は蚕の大難也さる
によつて世間の蚕大方此時に多分定るもの也よく〳〵
心つくへし
物語に云三年以前宝永年来寅の年の事なるに蚕はき
立時分にはことの外寒しけれ共世の中の人々しゆれんの故か
大分繁昌にて舟蚕の時分には桑の直段金壱歩に四束
うり買ける然所に五月十日十一日のわるいきれ故蚕
悉くふそくに成後には桑に直段なし雖_レ然有村に蚕
しゆれんの人有て其いきれを心得家内にて火をたかす
戸障子をはつし風そよがさる蚕棚へ唐箕(とうみ)にて風を入
右の三日を補けり扨又近所 合壁(かつへき)親類の方へは我は如此
する也心付け給へといひける心得たりとて我も〳〵と
補へは村中不残是を学ひけるさるによつて蚕殊外