翻刻
「右帖」
物語に言有所にたくひまれなる蚕にしゆれんの人有
此人は種をも出しけるか前かた両度上り前にわる
いきれに逢(あい)て蚕ことの外さわきたるにより桑に露
をそゝきてせめ付〳〵くれけれはぬれ桑にひた〳〵と
繭をつくりける依之是非なく上て見れは若蚕なり
とかく此暑気は一時迠にはあらさる重て【而=て】はあをきさま
さんとて大き成うちわを拵へけるに有時家方へ来て
かたりける然らは我もこしらへんとて聞と其まゝ
大うちわ四五本拵たしなみけり然る所に元禄年
来末の年五月九日に以の外成わるいたれ有て其日
あけたる人々は多くは無理ひさりをあ【阿=あ】けてまゆ
【左帖】
散々なり家蚕も翌日上る筈の籠三十枚程あり
見れはこと〳〵くさわきけるもとよりなる彼大うち
わを取出し立替りにあをきさまし桑をせめ付〳〵
くれけれは翌日迠こらへける次朝上て見れは
思ひの外繭大きく作り大分石取出し近所にてむり
ひた【き】りを上たるまゆとくらふれは一倍よりと【も】猶つ
よし是蚕れんの人の教を用たる故の徳なり
扨又右の庭休若おもひなから無伝【無處の誤りか】てあつく休ませ
ひきり揃わさる時は幾度も老蚕ひろいをして度
ことに桑一葉ならへにあたへ其後不残老蚕と見へし
時桑ともに取てまふしへやとふへし
第十一まふしの事 附 永雨南風凌たる物語