翻刻
【右丁】
給ふ所なり蚕四度の休は仏に有則常楽我清【=浄】天に
有則は元亨利貞人に有則仁義礼智身にとりては地水火風
の四大也又養人に対しては生住異威【滅】の理を志らせ三世を顕す
名虫也三世と者種は過去也蚕は現在繭は未来の果也過去
のあしき蚕は必現在悪し過去のよき蚕は現在にて養育
たゝしくする時は未来にてはそれ〳〵に随て恩報の果を
作る又現在にて養育ただしからすして蚕に諸の病出る
時は果を作る事思ひもよらず終に滅する也養人是を慎み
蚕の一生は全人間一代の行也正に仏菩薩は蚕と生を現じ
させ給ひてし儒仏神の三道を教させ給ふは誠に有かたき
次第也人として是をしらすんば有へからすかほと尊虫を
【左丁】
おろそかにする時は養(かい)はつすのみならす却て天の御にく
しみあらんや又富貴なる人は事しけきゆへに蚕に疎(をろそか)なる
も尤也然といへとも道にあたらすたとひ金銀にはふそくなしと
も道を思い儀を慮(をもんはかり)て是を養ふにおゐては随分に心を
尽し初より終迄念を入つめ十分に仕おふする時は徳用のみ
にあらす仏菩薩の御憐も深からん養人常に午の日を
祝ひ蚕神を敬ふへし蚕のためとて外の仏神を祈らん
よりは我家にて慎て蚕神を敬奉る時は諸天善神あら
ゆる仏菩薩も其内にそなはらせ給ふ也
歌に
千早振神に非礼を慎みて誠を祈れ四方の人々