翻刻
【右丁】
のみとり丸やと仰けれはさはなく
してみとり丸いつくよりとりて
きたりけんならのかしい葉ふくみ
て大臣殿に奉るそふかここく【蘓武が故国 注①】
の玉つさをかりのつはさにことつ
てしも今こそ思ひしられたれ
われも思ひはをとらしと御ゆひ
をくひきり木葉に物をそあそ
はしたるたんの落葉なりけれ
はたゝ哥一首書付てをしたゝ
み丸めて鈴付にゆひ付てはや
帰れよと有しかはうれしけにて
此鷹か三日三夜と申には豊
【左丁】
後の御所に参りけるまたさう
てう【早朝】のことなるにみたい所はえん
きやうたう【注②】して御座有しかみ
とり丸を御らんして汝はこくう【虚空=大空】を
かける物なれはいたらぬ所よも
あらし物いふものにてあるなら
は大臣殿の御行ゑをなとかは
申さて有へきそあらうら山
しのみとり丸やと仰けれは
此鷹うれしけにて御前さ
して参りすゝつけをふりあけ
ゐなをりたりみたいふしきに
思食【「めし」と読ませるヵ】くはしく見給へは木葉に
【注① 中国前漢の名臣蘓武が、匈奴に捕らわれ十九年間抑留されたが、降伏せずのちに雁に手紙を託し、故郷に帰ることができたことをさしている】
【注② 縁行道(えんぎょうどう) 経文や念仏を唱え、或は瞑想などしながら、仏堂や屋敷の縁側、長廊下などを歩くこと】