翻刻
【右】
○凡/疱瘡(はうそう)麻疹(はしか)とも其/症(やまひ)おこらんとするときその
父母また乳母(うば)などの夢(ゆめ)に異人(ゐじん)を見ることあり
老嫗(らうおう)を見るをよしとす壮女(そうしよ)を見ると凶(けう)とし僧(そう)
あるひは侍(さふらひ)をみるを中とす是則/疫神(ゑきじん)なり因(ちなみ)にいふ
べし或(ある)人の子疱瘡のとき其父の夢(ゆめ)に白衣(はくゑ)を着(き)
たる法師(ほうし)しろきてぬぐひをかふりたるがわか家に
入来ると見てさめて後其子疱瘡の序病(じよやみ)に
かゝれり依(よつ)て赤(あか)き頭巾(づきん)をかふらせたるが病者(びやうじや)この
【左】
赤きをきらひ白きてぬぐひを望(のぞみ)すべてのもの色(いろ)の
しろきを好みたるゆへ其父母ことの外いまわしがり
て他(た)の疱瘡(はうそう)には異(こと)なることを愁(うれ)ひ案(あん)じわびゐたり
しが何事なくしまひて肥立(ひだち)こゝろよく其子今に
おゐて壮健(さうけん)なり白きいろは喪中(もちう)の服(ふく)なるゆへ父母気
にかけて案じたりしも無難(ぶなん)にして平愈(へいゆ)せし
ことものは案(あん)ずるものにあらず麻疹(はしか)とてもそのごとく
一生にひとたびの大厄(たいやく)なれば其/脳(なやみ)甚(はなはだ)しといへども