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【右】
養生(ようじやう)を専要(せんよう)とすれば難(なん)なくして全(まつた)かるべしさきに
享和(けうわ)三亥年/麻疹(はしか)のはやりしとき予 旅中(りよちう)
にありて東海道(とうかいどう)箱根(はこね)を通りしに乞食(こつじき)の
子の麻疹(はしか)に悩(なやみ)たるが道路(どうろ)に菰筵(こもむしろ)をかふり打ふし
ゐたる側(そば)に其 姉(あね)と見ゆるが是も麻疹をせしと
見え形痩(かたちやせ)ていまだ肥立(ひだち)間もなき体(てい)なれども
元気(げんき)よく何事をかわらひ戯(たはふ)れて遊びゐたる見
へたりまた雲助(くもすけ)どもの中にも麻疹のあとありて
【左】
やうやく肥立(ひだち)にかゝりしと見へしも駕(かご)をかき荷物(にもつ)
を負(おひ)などしていきほひよく酒肴(さけさかな)思ひのまゝに
飲食(いんしよく)する体(てい)なりかゝる身にして其病の中にも
風寒(ふうかん)を凌(しの)ぐ儲(まうけ)もあるまじく食物(しよくもつ)もさだめし
空腹(くうふく)の時は禁忌(きんき)をもゑらむましきにこゝろよく
肥立せしと見れば何事なく仕果(しおほ)せしと見え
たり世俗(せそく)には疱瘡(ほうそう)を美目定(みめさだ)めといひ麻疹(はしか)は
命(いのち)さだめ【注】なりといへどもかく野人(やじん)の無難(ふなん)なるは実(まこと)
【注 「命定め」=生きるか死ぬかを決定すること、またその要因。特に近世、幼児にとっての疱瘡、麻疹(はしか)などをいう。】