翻刻
【右丁】
直正(ぢきしやう)和尚(おしやう)僧(そう)西岸(さいがん)と力(ちから)を戮(あ)はせ勧進(くわんしん)の功(こう)を募(つの)り木(き)を伐(きり)荊(うばら)を
刈(かり)て石(いし)を畳(たゝみ)て階(きざはし)とすしかありしより行人(かうじん)苦難(くなん)の患(うれひ)を遁(のが)る
清水(しみづ)薬師(やくし)如来(によらい) 清水坂(しみづさか)の下(した)にあり医王山(ゐわうさん)大善寺(たいせんじ)と号(がう)す曹洞(そうとう)
派(は)の禅林(ぜんりん)にして芝(しば)の青松寺(せいしようじ)に属(ぞく)せり永正(えいしやう)年間(ねんかん)此地(このち)の農民(のうみん)新見(しんみ)
善左衛門(ぜんさゑもん)といへる人 開基(かいき)す《割書:善左衛門(ぜんさゑもん)法名(ほふみやう)を清雲(せいうん)大善(たいせん)庵主(あんしゆ)と号(がうす)|永正(えいしやう)十年癸酉二月 寂(じやく)す其(その)霊牌(れいはい)当寺(たうじ)にあり》其後(そのゝち)元亀(げんき)
年間(ねんかん)に至(いた)り青松寺(せいしようじ)雲崗(うんかう)和尚(おしやう)の法孫(ほふそん)在天(ざいてん)禅師(ぜんし)住職(ぢゆうしよく)して左右(さいうの)
脇壇(けふだん)に十二(じふに)神将(しんしやう)の像(ざう)を置(お)く境内(せいせん)湧沸(ゆふつ)す一年(ひとゝせ)
大樹(たいじゆ) 此地(このち)御遊猟(ごいうりやう)の頃(ころ)当寺(たうじ)へ立寄(たちよ)らせ給ひ此(この)清泉(せいせん)によりて
此(この)本尊(ほんそん)を清水(しみづ)薬師(やくし)と称(しよう)すべき旨(むね) 命(めい)あり爾(しかりし)よりかく唱(とな)ふ
るといへり《割書:此(この)清泉(せいせん)は寺前(じぜん)山(やま)の涯下(かいか)に添(そひ)て拂流(ふつりう)せり近隣(きんりん)の村落(そんらく)皆(みな)此水(このみづ)を|汲(くみ)もちゆ此辺(このあたり)蘿葡(だいこ)を名産(めいさん)とす世(よ)に清水(しみづ)大根(だいこん)と称(しよう)して種(たね)を売買(ばい〳〵)》
《割書:する事|尤(もつとも)夥(おびたゝ)し》
千葉家(ちばけの)城趾(しろあと) 同所より西(にし)へかけて耕田(こうでん)に臨(のぞ)みし台(だい)の地(ところ)を
【左丁】
指()
さし
ていへり今(いま)も空塹(からほり)の如(ごと)き形(かたち)所々に残(のこ)れり《割書:此地(このち)近(ちか)き頃(ころ)まで|堀(ほり)の内村(うちむら)と唱(とな)へしと》
《割書:なり是(これ)城(しろ)|趾(あと)の証(しよう)也》此地(このち)より南(みなみ)の方(かた)を中台(なかのたい)といひ又 西(にし)の方(かた)一里計(いちりばか)りに
西台(にしのだい)と云地(いふち)ありて何(いづ)れも城営(じやうえい)の旧跡(きうせき)たりといふ
熊野(くまの)権現宮(ごんげんのみや) 同所清水坂(しみづさか)の上(うへ)より三町ばかり西(にし)の方(かた)涯続(きしつゞき)にあり
社(やしろ)の後(うしろ)は涯(きし)に臨(のぞみ)て松杉(まつすぎ)等(とう)の老樹(らうじゆ)鬱蒼(うつさう)たり就中(なかんつく)樟(くすのき)の大樹(たいじゆ)は
周圍(めぐり)三圍(みかゝへ)に余(あま)れり当社(たうしや)は往昔(むかし)千葉氏(ちばうぢ)城内(じやうない)の鎮守(ちんじゆ)たりしと
いふ《割書:今(いま)は志村(しむら)より西(にし)の台(だい)迄(まで)の間(あひだ)|七ケ村の産土(うぶすな)神とす》土人(とじん)此地(このところ)を隠岐殿(おきどの)やしきと字(あざな)す今(いま)奥(おく)の
院(ゐん)と称(しやう)する地(ち)に石(いし)の小祠(こほこら)あり十四五年 前(まへ)此地(このち)を穿(うが)ちて古鏡(こきやう)
二面(にめん)と刀(かたな)一振(ひとふり)とを得(え)たりしとなりされど其故(そのゆゑ)をしらざれば祟(たゝり)
あらん事を恐(おそ)れ元(もと)の如(ごと)く埋蔵(まいさう)したりとなり《割書:寛政(くわんせい)六年 志村(しむら)の里正(なぬし)|大野(おほの)吉住(よしすみ)当社(たうしや)を修(しゆ)》
《割書:補(ほ)し華表(とりゐ)を石(いし)にし又 上(かみ)の宮(みや)の地(ところ)に|六百三十五 株(ちやう)の杉(すぎ)を栽(うゑ)たり》別当(べつたう)は新義(しんぎ)の真言宗(しんごんしう)にして三次山(さんじさん)
延命寺(えんめいじ)と号(がう)し中野(なかの)法仙寺(ほふせんじ)に属(ぞく)せり《割書:延命寺(えんめいじ)の鎮守(ちんじゆ)を三次(みつぎ)権現(ごんげん)と称(しよう)す往昔(むかし)|此地(このち)の城主(じやうしゆ)千葉(ちば)隠岐守(おきのかみ)の家臣(かしん)三次(みつぎ)某(それがし)の》
《割書:霊(れい)を鎮(まつ)ると|いひ伝(つた)ふ》