翻刻
【右丁】
《割書:なりしかば北条(ほうでう)氏政(うぢまさ)の下知(けぢ)として北条(ほうでう)常陸介(ひたちのすけ)氏繁(うぢしげ)の三男(さんなん)を養子(やうし)として彼(かの)息女(そくぢよ)と|妻合(めあは)せらるされども幼少(ようせう)なれば木内上野に預(あつけ)らる上野 討死(うちしに)の後(のち)は宮内(くないの)少輔(せういふ)支配(しはい)》
《割書:あり彼(かの)与力(よりき)には板橋(いたはし)の城主(じやうしゆ)肥後守(ひごのかみ)赤塚(あかつか)の城主(じやうしゆ)松戸(まつと)越前守(えちぜんのかみ)なりと云々然時(しかるとき)は|石浜(しはま)の千葉家(ちはけ)の城主(じやうしゆ)幼少(ようせう)なりしにより松戸(まつと)越前守(えちぜんのかみ)此城(このしろ)をあづかりしならん欤(か)》
《割書:猶(なほ)弟(だい)五 巻(くわん)平塚(ひらつか)ならびに弟(だい)六 巻(くわん)石浜(いしはま)及(およ)び|弟(だい)七 巻(くわん)市川(いちかは)の条下(でうか)等(とう)をあはせみるべし》
吹上(ふきうげ)観音堂(くわんおんだう) 下新座村(しもにゐくらむら)にあり臨済派(りんざいは)の禅(せん)刹にして福田山(ふくてんさん)東明寺(とうみやうじ)
と号(がう)す同邑(おなじむら)金泉寺(きんせんじ)に属(そく)せり開山(かいさん)は普明(ふみやう)国師(こくし)中興(ちゆうこう)を浄西(じやうさい)
和尚(おしやう)と称(しよう)す《割書:当寺(たうじ)寛文(くわんぶん)十二年の鐘(かね)の銘(めい)に勧進(くわんしん)耆旧(ききう)浄西(じやうさい)とあり縁起(えんき)に|元禄中(げんろくちゆう)信州(しんしう)より此地(このち)に来(きた)る沙門(しやもん)浄西(じやうさい)とあり尤(もつとも)不審(ふしん)少(すくな)からず》
本堂(ほんだう)本尊(ほんそん)聖観世音(しやうくわんせおん)菩薩(ほさつ)《割書:立像(りふざう)にして御長(みたけ)八寸|行基(ぎやうき)大士(たいし)の作(さく)なり》
相伝(あひつたふ)聖武(しやうむ)天皇(てんわう)の天平(てんひやう)年間(ねんかん)行基(きやうき)菩薩(ほさつ)此地(このち)に於(おい)て天竺(てんちく)の椋樹(むくのき)
を以(もつ)て聖観世音(しやうくわんせおん)御丈(みたけ)八寸の尊像(そんざう)を彫刻(てうこく)し赤池(あかいけ)といふ池(いけ)の傍(かたはら)に
安置(あんち)ありしを開山(かいさん)智覚(ちかく)普明 国師(こくし)《割書:鎌倉志(かまくらしに)曰(いはく)国師(こくし)は妙葩(めうは)春屋(しゆんおく)と号(がう)す|夢想(むさう)国師(こくし)の嗣法(しはう)甲州(こうしうの)人(ひと)相州(さうしう)鎌倉(かまくら)》
《割書:建長寺(けんちやうじ)五十五世 嘉慶(かけい)二年戊辰|八月三日 化寂(けしやく)と云世寿七十八》当寺(たうじ)を開創(かいさう)しこゝに安置(あんち)せられたりし
かども其後(そののち)弟(だい)三世 玄嶺(げんれい)禅師(ぜんし)住職(ちゆうしよく)の頃(ころ)《割書:此(この)禅師(せんし)は大永(たいえい)四年|甲申三月九日 寂(しやくす)》寺院(じゐん)大(おほい)に
荒廃(くわうはい)せり仍(よつて)本尊(ほんそん)は同邑(おなしむら)金泉寺(きんせんじ)といへる禅林(せんりん)に移(うつ)しまゐらせ
【左丁】
しが元禄(げんろく)年間(ねんかん)信州(しんしう)より沙門(しやもん)浄西(じやうさい)なるもの此地(このち)に来(きた)りし頃(ころ)
脚痛(きやくつう)によりて行歩(ぎやうぶ)かなひがたく金泉寺(きんせんじ)に止(とゞま)りてありしが夢中(むちゆう)
霊感(れいかん)ありて其痛(そのいたみ)全快(ぜんくわい)しければ此(この)本尊(ほんそん)の加護(かご)なる事を尊(たふと)み
報恩(ほふおん)の為(ため)当寺(たうじ)を再興(さいこう)し又 新(あらた)に御丈(みたけ)二尺三寸の尊像(そんざう)を彫刻(てうこく)
して前(まへ)の霊像(れいざう)をば新(あたらし)き仏体(ぶつたい)の胎中(たいちゆう)に籠(こめ)たてまつりけると
なり然(しかる)に往(いに)し安永(あんえい)五年丙申十二月十日 夜(よ)二更(にかう)の頃(ころ)観音堂(くわんおんだう)の
内陣(ないぢん)より出火(しゆつくわ)し火焔(くわえん)盛(さかん)なれば衆人(しゆうじん)近寄(ちかよる)事あたはず本尊(ほんそん)は既(すで)に
火中(くわちゆう)に埋(うづも)れ給ふ然(しか)るに唯(たゞ)左(ひだり)の御手(おんて)と右(みぎ)の御足(おんあし)とを焦(こがす)のみにて
全体(ぜんたい)恙(つゝが)なし同邑(おなじむら)に伊三郎(いさふらう)といへる農民(のうみん)あり夜明(よあけ)て後(のち)灰中(はいのなか)
探(さが)して本尊(ほんそん)を得(え)たてまつりしといふ《割書:翌(あく)る酉(とり)の年(とし)龍燈(りうたう)を現(げん)す|る事同正月七日の夜(よ)より》
《割書:同十六日に至(いた)り|しといふ》
古鰐口(こわにくち)一口《割書:渡(わた)り六寸五分ばかり厚(あつ)さ二寸 余(よ)あり正保(しやうほ)三年丙戌十月 観音(くわんおん)|堂(だう)再建(さいこん)入仏(にふぶつ)供養(くやう)の為(ため)開帳(かいちやう)なしたてまつりし時(とき)寺境(じきやう)赤池(あかいけ)と》
《割書:いふなり出(いで)たりといへり|其銘(そのめい)に曰(いは)く》