翻刻
【右丁】
感得(かんとく)し旧里(きうり)に一宇(いちう)を営(いとなみ)て是(これ)を安置(あんち)し奉(たてまつ)る《割書:当寺(たうじ)|是(これ)也》阿闍梨(あじやり)化(け)
寂(じやく)の後(のち)も志(こゝろざし)を継(つぎ)其子(そのこ)重俊(しげとし)新(あらた)に荷土(かと)を催(もよほ)し工商(こうしやう)をうながし
諸堂(しよだう)を営(いとな)み紀州(きしう)高野山(かうやさん)大師(だいし)入定(にふぢやう)の地勢(ちせい)を模擬(もぎ)して永(なが)く衆生(しゆしやう)
化縁(けえむ)の仏場(ぶつぢやう)とならせしかありしより世(よ)に東高野山(ひがしかうやさん)又 新高野(しんかうや)
とも唱(とな)へはべり《割書:重俊(しげとし)の嗣(し)平太夫(へいたいふ)重辰(しげとき)にいたり重(かさ)ねて諸堂舎(しよだうしや)を修復(しゆふく)す|其(その)季子(すゑのこ)幼(いとけなき)より三宝(さんはう)を尊信(そんしん)し九 歳(さい)の時(とき)みづから剃髪(ていはつ)得度(とくど)》
《割書:して法(はふ)を定昌(ぢやうしやう)に嗣(つぎ)名(な)を信有(しんいう)といふ後(のち)初瀬(はつせ)の小池坊(こいけばう)に|住職(ぢゆうしよく)して正僧正(しやうそうしやう)に任(にん)す学業(がくぎやう)ことに勝(すぐ)れたり》
当寺(たうじ)昔(むかし)は東光(とうくわう)観照(くわんしやう)等(とう)の子院(しゐん)ありてすべて諸堂(しよだう)舎輪(しやりん)燠(くわん)として
甍(いらか)を並(なら)べ実(じつ)に野山(やさん)の俤(おもかげ)をなせしもいつの年(とし)にや火災(くわさい)に罹(かゝ)りて径(けい)
営(えい)悉(こと〴〵)く烏有(ういう)となれり依(よつて)元禄中(げんろくちゆう)再建(さいこん)ありしかども旧観(きうくわん)に復(ふく)する
事あたはず今(いま)は其(その)十が一を存(そん)するのみ
亀頂山(きてうさん)三宝寺(さんはうじ) 密乗院(みつじようゐん)と号(がう)す上石神井村(かみしやくじむら)にあり真言宗(しんごんしう)の道場(だうぢやう)に
して頗(すこぶる)大刹なり法印(はふいん)権大僧都(ごんのだいそうづ)幸尊(かうそん)応永(おうえい)元年甲戌の創建(さうけん)
たり往古(わうこ)は勅願(ちよくくわん)の地(ち)なりし故(ゆゑ)勅書(ちよくしよ)数通(すつう)を蔵(さう)すといふ慶長(けいちやう)十一
【左丁】
年丙午 当寺(たうじ)弟(だい)十世 頼融(らいいう)上人 檀主(だんしゆ)尾崎(をさき)出羽守(だはのかみ)資忠(すけたゞ)といへる
人と共(とも)に力(ちから)を勠(あは)せ寺院(じゐん)修復(しゆふく)の功(こう)を全(まつた)ふす当寺(たうじ)は則(すなはち)尾崎氏(をさきうぢ)第(てい)
宅(たく)の旧趾(きうし)なりといへり
本堂(ほんだう) 本尊(ほんそん)勝軍(しようぐん)地蔵(ぢざう)菩薩(ぼさつ)《割書:僧形(そうぎやう)にして馬(うま)に乗(じやう)したまふ御影(みえい)なり|伝(つた)へ云(いふ)往古(そのかみ)此(この)本尊(ほんそん)盗賊(とうぞく)の為(ため)盗(ぬすみ)とらる》
《割書:其夜(そのよ)本尊(ほんそん)住持(ちゆうぢ)の夢中(むちゆう)に告(つげ)て曰(のたまは)く我(われ)願(ねがは)くは化(くえ)を垂(た)れ六趣(ろくしゆ)の衆生(しゆしよう)を救(すく)はんとすされ|ど乗(じよう)する所(ところ)の馬(うま)は猶(なほ)こゝに止(とゞ)むと云々 住持(ぢゆうぢ)暁(あかつき)に至(いた)り堂中(だうちゆう)に入(いり)て拝(はい)するにはたして》
《割書:本尊(ほんそん)いまさず故(ゆゑ)に其後(そののち)新(あらた)に今(いま)の本尊(ほんそん)を|彫造(てうさう)し奉(たてまつ)り旧古(きうこ)の馬上(ばしやう)に安(あん)しまゐらすといへり》稲荷(いなり)祠《割書:堂前(だうせん)左(ひだり)の岡(をか)にあり里老(りらう)相伝(あひつた)ふ|上代 当寺(たうじ)の住持(ぢゆうぢ)某(それがし)灌頂(くわんてう)修行(しゆぎやう)の》
《割書:日(ひ)老狐(らうこ)鳴(なき)て寺院(じゐん)を廻(まは)る事二三 回(くわい)其(その)禍福(くわふく)をしらするに似(に)たり然(しか)るに其夜(そのよ)火(ひ)起(おこ)る|事 再三(さいさん)その火(ひ)遂(つ)ひに物ならずして即(すなは)ち消(きえ)たり故(ゆゑ)に火消(ひけし)稲荷(いなり)と称(しよう)するといへり》
千体(せんたい)地蔵堂(ぢざうだう)《割書:表門(おもてもん)の左(ひだり)|にあり》八幡宮(はちまんくう)《割書:同(おな)じ右(みぎ)|にあり》
寺宝(じほう) 後奈良院(ごならのゐん)勅書(ちよくしよ)一通 正親町院(おほきまちのゐん)勅宣(ちよくせん)一通
小田原(おたはら)北条家(ほうでうけ)氏秀(うぢひで)証文(しやうもん) 当寺(たうじ)弟(だい)七世 尊海(そんかい)法印(はふいん)大僧正(だいそうしやう)官(くわん)勅許(ちよくきよ)之(の)
証状(しやうぢやう) 同(おなじく)八世 賢珍(けんちん)法印(はふいん)権僧正(ごんのそうしやう)官(くわん)勅許(ちよくきよ)之(の)証状(しやうぢやう) 同(おなじく)当寺(たうじ)住職(ぢゆうしよく)
勅許(ちよくきよ)之(の)倫旨(りんし) 北条(ほうでう)氏秀(うぢひで)制札(せいさつ) 同(おなじく)乙松(おとまろ)制札(せいさつ) 同(おなじく)岡(をか)入道(にふだう)江雪(こうせつ)老(らう)
制札(せいさつ)