← 前のページ
ページ 12 / 130
次のページ →
翻刻
小諷千代友
【本文右側の指示語・胡麻譜等省略。文字の囲み・飾り囲み等の注記省略】
【上段】
祝言之部
春 高砂
所は高砂の〳〵。尾上の松も年ふり
て。おいの波もよりくるや。この下かげの
おちばかくなるまで命ながらへて。猶いつ
までかいきの松。それも久敷名所哉〳〵
難波
一花ひらくれは天下みな。春なれや
万代のなほあんせんぞめでたき
志賀
都鄙円満の雲の下四海八しまの
外までも。波のこゑ万歳のひゞきは
のどけかりけり
松竹
春ごとに君をいはふや千代の松。たつや
みどりもわか竹のしげれる宿のかず
かずに。ゆきゝの人もゆたかにてなほ
よろづ世といのらまし〳〵
老松
花も松も諸ともに。万代の春とかや
千代よろづ世のはるとかや
夏 加茂
初音ふりゆくほとゝぎす猶すぎ
かてに行やらで。今一通り村雨の。雲
もかげろふ夕つくひ。夏なき水の川
ぐま汲ずとも影はうとからじ〳〵
菖蒲
君か代にひきこそそむれみしま
江の薬のあやめ宿ごとの。軒端にいはひ
かけまくも。賢き君のみよなれや〳〵
氷室
春過夏たけて。はや水無月になる
までも。消ぬ雪の薄氷。供御のちからに
あらずはいかでか残る雪ならん〳〵
【中段】
秋 弓八幡
月の桂の男山けにもさやけき影
に来て。君万歳といのるなる。神
にあゆみをはこぶなり〳〵
菊月
山かつら明行庭の初霜に。それか
あらぬか立よりて。おらばやおらん庭の
おもまがきに匂ふ白菊の花をかざし
て誰もみな。ともに千歳や契るらん〳〵
花筐
露も時雨もときめきてよもに色
そふ初紅葉。松もちとせのみどり
にて。ときはの秋にめぐりあふ。御幸の
車はやめん〳〵
冬 鉢木
松はもとより常盤にて。たきゞと
なるは梅桜切くべて今ぞみかきもり。
衛士のたく火はおためなりよく寄
てあたりたまへや
羽衣
はらふ嵐に花ふりて。実雪を廻ら
す白雲の袖ぞ妙なる
歳暮
楽しみの民のかまどはにぎはひて。
はこぶや四方の貢もの。国々も道す
ぐに舟路の風も心して。やしまの波も
音せぬ九重の雲もおさまれり〳〵
雑 邯鄲
出入ひとまでも。光りをかざるよそ
ほひ。まことや名に聞し寂光の都
喜見城の。たのしみもかくやと思ふ
ばかりのけしきかな
鶴亀
池の汀のつるかめは蓬莱山もよそ
ならず。君のめぐみぞ有がたき〳〵
婚姻之部
高砂
正木のかつら長き世の。たとへ
なりけるときは木の中にも名は
高砂の。まつ代のためしにも相
生の松ぞめでたき
浦島
契り結ぶの神こゝに。跡たれ年を
経る宮居。いく久しさも。かきられず
〳〵
皇帝
寿なれや此契り。天長く地久しく
て盡る時もあるまじ
【下段】
慶賀之部
養老
袖ひちてむすふ手の。蔭さへ
見ゆる山の井の。実も薬と思ふ
より。老の姿も若水とみるとそ
うれしかりけれ
猿通寺
御子孫も繁昌。御寿命もながく
いきの松の。千代かけて御悦ひ
のみきをいざやすゝめん
元服 烏帽子折
あつぱれ御きりやうや。是ぞ弓矢
の大将と申とも不足よもあらじ
家督 現在鵺
国ゆたかなる御代とてや民も栄ふ
る時ありて。君々たれば家々の。
風をつたふる有がたや〳〵
首途 難波
はこぶちまたや都路のすぐなる
御代を仰がんと。関の戸さゝで千里
まで。普く照す日影かな〳〵
酒宴之部
邯鄲
心も晴やかに。飛たつばかり有明の
よるひるとなき楽しみの。栄花に
もゑようにも実此上やあるべき
紅葉狩
さすか岩木にあらざれば。心よは
くも立帰る。所は山路の菊の酒
何かはくるしかるべき
花 田村
いづくの春もおしなへて。のどけき
蔭は有明の。天も花にえゝりや。面
白の春べやあら面白の春べや
月 竹生島
月海上にうかんでは兎も波をはし
るか面白の島のけしきや
雪 難波
雪は豊年のみつぎ物ゆるすゆへ
にや中〳〵いやましにはこぶ御宝の。
千秋万歳の。千箱の玉を奉る
祝言 高砂
さすかいなには。悪まをはらひ。おきむる
手には。寿福をいだき。千秋楽は民
をなで。万歳楽は命をのぶ。相生の
松風颯々の声ぞたのしむ〳〵
平安 岡田春燈斎鐫