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新聞図会 第十号
阿州名東県十五等出仕吉本信治いふ人の家に.雇(やと)【「僱」は「雇」の俗字】ひ女の
おつねといふ者は.主人の留守(るす)の戸(と)堅(かた)くろしく.寝(ね)もやらぬ夜に
押入し.一人りの賊(ぞく)は研(と)ぎすます.出刃と眼玉をひからして.
金子出せだせに驚(おどろ)くおつね.わたしは此家の雇人ゆへ.金子の
有所はしらねども.着類は爰(ここ)にと箪笥(たんす)から.出して渡せど
心では.旦那の留守に一と品でも.紛失(ふんじつ)なさばいゝわけなしと.
心もたけき女ゆへ.そつとしら刃をかくし持.とはしら浪の
白痴(しれもの)が.衣類を背負(せをい)出行を.思ひ
しれよと切り付しが.賊もすかさず
出刃振り上.しばしか程は戦(たゝか)へど.
女の腕(うで)のかい
なさに.すでに
切ふせられんと
せしが.近所の人が
聞(きゝ)つけて.かけ付来たる
有様に.賊は品物捨置て.逃
去りしゆへ一と品も.とられざりしは
此おつねが.心がけよき所とて
県庁(おかみ)さまより賞典(ごほうび)を.いたゞきしこそ手柄なりとぞ
《割書:略誌|画図》笹木芳瀧
八尾善板