翻刻
小信改二代
貞 信 画
冨士 政 梓
彫 九一
いつも新(しん)ふんと申せは情死盗賊密夫(しんぢうどろほうまおとこ)
欠落と美事(よいこと)は一ツも有ませぬゆへ作者も
心配いたしまして今日は珍(めつら)しい貞女を
出しました是は備中浅口郡の長尾村
小野亀吉の後家(ごけ)おはる今年二十と
八才なるか十六才に亀吉へ嫁(よめり)ましてから
子を明治二年に産(うみ)ましたが其時分から
亀吉は癩病(らいひよう)といふ難 症(せう)ゆへ日々腐(ひに〳〵くさ)るとも
心はくさらぬお春の貞実(ていじつ)乳呑子(ちのみこ)かゝへて
髪(かみ)を結ひわづかの賃(ちん)銭に細烟(ほそけふ)り操(みさほ)と
共(とも)に立(たつ)る身を不便(ふひん)に思ひ父母(ふたおや)は離別(りへつ)せ
よとは進(すゝ)むれと道(みち)を守(まも)りてうけひかず
日を送りしか去年の秋 夫(おつと)亀吉死しければ
又もや再縁(さいゑん)すゝめても此幼子が夫(おつと)のかたみ此子に
家名(いへ)をつがせねは何面目に冥土のおつとに見ゆべしと
決(けつ)して得心(とくしん)せざるとは是(これ)そ心(こゝろ)の美人(びじん)なるべし
正情堂九化記
日々新聞