翻刻
小信改二代 綿政板
貞 信 画
彫九一
【本文】
東京(とうきやう)小石川原町に無禄(むろく)の士族(しぞく)鈴木定次郎
は兇盗(けうぞく)の為(ため)に殺害(せつがい)されし事実(ことのよし)といふは
明治八年 弥生(やよひ)の末(すへ)三十一日 午前(こぜん)四 時(じ)なる頃(ころ)なりて
花(はな)に嵐(あらし)のいた〳〵敷(し)く落散(おちゝ)り有(あり)し割魚刀(でばほうちよ)を
四大区 四等出仕(しとうしゆし)石川金造 命(めい)を蒙(かふむ)り是(これ)を取揚(とりあ)け
つく〴〵詠(なが)め又 足跡(あしあと)の向(むかひ)しを慕(した)ひ鞭打如(むちうつごと)く
駒込(こまこめ)の片町富川与八が其日(そのひ)包丁(ほうちやう)を鬻(うり)しに手掛(てがゝり)りを
もとめ定次郎が一子長之助と和(くわ)せざる
より家分(いへをわけ)けたるに心附(こゝろつき)長之助を
招(まね)きし跡箪笥(あとたんす)を捜(さぐ)れば
定次郎の衣服(いふく)はたして出(いで)て
犯人(ざいにん)一子に事極(こときわま)り直(たゞち)に捕縛(ほばく)
せられしは実(じつ)に天暴悪(てんぼうあく)を
示(しめ)すに早(はや)く良才(りようさい)の巡査出(じゆんさいで)しは
懼(おそる)べき事なりける
花源記
日々新聞 第七号