翻刻
日々新聞 《割書:第| 拾三》
《割書:号|》
【紙面右下】
小信改二代
貞信画
《割書:心斎はし》
綿政板
彫福刀
泉州佐野市場村なる辻本屋といふ宿屋へ
堺県下の小商人松兵ヱは明治八第三月中旬
一泊せしに下女なるお梅の容麗なるに
はや煩悩(ほんのう)の一念はつし菅笠の
すげなきや脚伴の紐のとけ
安きやどふ甲掛のそこい【限り、はて】わか
らず二朱札の一枚にておれて
汚れる袖の縁間せまき宿に
多人の泊りなればお梅の簪を松兵ヱの
あたまへさし是をしるべに忍あわんと
ちかひし事を合宿の長兵ヱ洩(もれ)れきゝはやそれ〳〵の
旅枕道の労れに松兵ヱもよく熟睡の折をゑて
長兵ヱは一計めくらしその簪を我があたまへさしかへ待間うそ〳〵お梅の足音
闇(やみ)にとらへてしばらく語ひ八声のとりと松兵ヱ目覚し宵の
約束(やくそく)のかんざしなくお梅を呼(よん)でたづるに初てこいの的ちがひ
矢竹(やたけ)になつてお梅は罵(のゝし)り果は大声のいさかひとなり一夜流の
水掛論実に珍説笑に絶たり
花源誌