翻刻
東京日々新聞
七百三拾六号
一蕙斎芳幾画
岸田(きしだ)吟香(きんかう)は新聞(しんぶん)
探訪(たんばう)の為(ため)。 陸軍(りくぐん)
に従ひて台湾(たいわん)に在(あ)
る事二ヶ月余。 諸蕃(しよばん)降伏(かうふく)の
後(のち)ある時(とき)牡丹(ぼたん)生蕃(せいばん)の地に遊歩(ゆうほ)し。
帰路(きろ)石門(せきもん)の渓流(こかは)を渉(わた)らんとて靴を
脱(ぬが)んとする折から。 土人(どじん)来(きた)りて
背(せ)に負(お)ふて越(こさ)んと云ふ。 吟香
辞(じ)すれども尚(なを)聴(きか)ざるゆゑ
渠(かれ)が背(そびら)に乗(のり)たりしに。
力(ちから)微(よわく)して立(たつ)こと能(あた)
はず。 遂(つひ)に笑(わら)つて止(やみ)
たりとぞ。 蓋(けだ)し
吟香は躯幹(からだ)肥大(ふとり)て。
重量(めかた)二十三貫目に余(あま)れり
吟翁が同社の硯友
轉々堂藍泉記