翻刻
東京日々新聞 九百廿六号
日向國(ひうがのくに)臼杵郡永井村にて先月
十三日明見社の祭礼ありしに
村の者ども集(あつま)りて例(れい)の村 芝居(しばゐ)
を催(もやう)したるに狂言は則ち忠臣蔵
なりしが五段目に至りて此村の精蔵(せいざう)と
云ふ者かの定九郎に扮して舞台(ぶたい)に出て
彼(か)の久しぶりの五十両と云ふ件迄 首尾(しゆひ)
よく行たれば今日の出来は精蔵兄の定九郎
なりと見物も誉(ほ)め居たりしに
勘平に扮したる男かねて所持
の猟銃(りやうじう)を持出しハタと火蓋を
切て落(おと)すや否や定九郎は弾丸(たま)に
打貫(うちぬ)かれてウンと仰(のつけ)に倒(たを)れたるまゝ即死し
たりと勘平も相済ずとて腹を切りしや否や⧖
⧖未た確報(かくほう)なし扨も村戯場(しばゐ) 可笑(おか)しき事も有るべし
此精蔵の如き猪打報ひもあるまじきに
実(ぢつ)に憫然(びんせん)の至りなりと人々 興(けう)を醒(さま)し
たるべし